8/7 関西外語大で三刀屋高「ヤマタノオロチ」公演

2012年8月7日(火)13時30分から関西外国語大学谷本記念講堂(大阪府枚方市中宮東之町16-1)で三刀屋高校演劇部が「ヤマタノオロチ外伝」を上演します。富山で高校演劇全国大会が10,11,12日行われ、それに参加する途中、大阪で公演することになりました。考古学者・佐古和枝先生の講演や落語家・桂 九雀さんの「異伝 ヤマタノオロチ」の朗読もあります。

大阪に住んでいるみなさーん!ぜひこの劇を観に行ってください。島根から大阪に出て働いているみなさーん。あの素朴な島根の高校生がこんな本格的な劇を公演するとは!!!と島根への誇りが積乱雲のようにむくむくと湧き上がってきますよ。ぜひ友達と、家族と、恋人と、いない人は一人で出かけてくださーい。きと満足されるはずです。新鮮な感動があるはずです。


顧問の亀尾先生の手紙によると、「平日の昼間、高校生による有料公演・・・。お客さんが来ない条件はそろいますが、自分たちの主催でこんなイベントをやる恐ろしさと楽しさが同居しています。こんな無茶な演劇部があると紹介していただければ幸せです」とあります。確かに無茶!No,No。大冒険、大挑戦です。雲南大阪支部も後援していますから大丈夫!このブログを見て行く人たちもたくさん!!イルかイナイカ!イナイトオモッテイルナ!

(ところがどっこい、亀尾佳宏、三刀屋高校演劇部、ヤマタノオロチ、高校演劇、神話などで検索に引っかかりグラフがキューンと高くなるのはいつものこと。亀尾さんの創作「三月記」のブログは当初から常に読む人がいる。おもしろい現象。)

希望者は上記のところへ申し込んでください。もちろん当日不意に来られても大歓迎!!山陰中央新報は次のように報道しています。ちょっと紹介させていただきます。

ありがとうございました。きちんと大切なことを押さえて書いてあるので新聞は便利がいいですね。大いに新聞を読みましょう。

三刀屋高校演劇部のみなさーん!カメオさーん!いつもの堂々とした演技と素晴らしい舞台で浪速人の度肝を抜き、2000人の大講堂(大きい!)の屋根が吹っ飛ぶような感動と拍手を楽しみにしています。

富山の全国大会は11日の13時からが三刀屋高校の上演。がんばってください。

 

H24 写真集「石見の昭和」発刊

この8月に「石見の昭和」が発売されます。津和野から大田まで、石見の風物など約800枚の写真を収録し解説をつけた大判の写真集です。その写真を大きく載せたチラシの新聞折り込みが4回あり、書店へ行くと何枚も窓や壁に貼りつけてPR中。本をこのように大々的に宣伝するのは珍しいことです。

発行は新潟県長岡市にある株式会社いき出版。発売元は島根県教科図書販売株式会社。A4版、上製本、280パージ(カラー写真8ページ)、9990円。市内では昭和堂やジャスト、江藤商会、仁万のたぐち文弘堂などで予約中。ある書店で聞くと好評で予約も多いとか。確かに記憶からも消えていく懐かしい昭和の風景がふんだんに出てきますので、手元に置いておきたい気がします。

5月のある日、ある大先輩から手紙がきて、「石見の昭和」という本をだすのでその中の大田の写真約70枚の解説を書いてくれとのこと。忙しいとか歴史学徒ではないとか大田生まれではないとか写した写真の意図が分からないとかいろいろ電話でも抵抗したのですが、説得に負け書く羽目になりました。いろいろ資料を集め、人に聞き現地へ行って写真に撮り、どうにかそれぞれの写真へ約100字前後の解説を書きました。第一校正、第二校正が6月末に終わりました。次の写真は第二校正のゲラです。

さて、次の写真は大田市内のどこでしょうか。現在は車の往来が多い大田市内の主要道路です。昭和40年頃にはあった風景ですが、今はまったくその面影も見えません。変わらないのは泰然自若とした山だけです。

ぼくはいくら考えても分かりませんでしたが、長久のどこかではないかと思いました。ある人に聞いたら、稲用だ、ある人は久利の行恒付近だ、と喧々諤々。あるときマイサンがいいました。「○○○じゃないかな。山の形からそうじゃないかと思う」。でも手前の川や木橋などから考えると自信が揺らいできます。決定的な手がかりは見つからないのです。

ある日管理人修平さんに見てもらうと、稲用かな、という返事。ところが2日後メールがきました。決定的な資料でした。

さてそれはどこか?写真をどうぞ。市民会館のそばにある宮崎橋の南詰め付近でパチリ。通称は産業道路です。
  昭和も遠くなりにけり、です。

河邊由紀恵詩集「桃の湯」 第12回中四国詩人賞

2012年6月30日、岡山の国際文化センターで第24回中四国詩人会理事会が開催されました。役員移動や会計報告などのあと、鳥取の井上嘉明選考委員長から、第12回中四国詩人賞の選考結果が発表されました。受賞は岡山の河邊由紀恵さんの詩集「桃の湯」です。受賞式は10月13日に岡山の「ピュアリティまきび」で開催される岡山大会の総会で行われます。

「桃の湯」はとても豊かな感性にあふれた詩集です。難しい言葉はありませんし読みやすい詩ですが、理解してもらうことを意図した詩ではないので、感覚でどのように受け止め感じるかがポイントです。

固有名詞や具体的な名詞や具体的な行動が出て来ますので、それを杖にしてついていくと予期しない抽象的な場所に連れ出されています。その場所がどこなのか。実際にあるのか。ありそうな懐かしい場所なのだがはっきりしない。作者はしなやかな表現で、飛躍の多い行換えや、遠いイメージの連などを自在に挟んで、読む者の想像を喚起し揺すり迷路へ誘い、どこまでも拡げていきます。

形容詞や副詞などの表現がとてもユニークで、霧のような、軟体動物のような、液体が流動しているような、境界がとろけていくような、何ともいえないさわやかな空気や色気や触感、感覚を生み出しています。不自然さがないのであまり意識しない人もあるかも知れませんが、意図的に使われていることは確しかです。

詩集は次の20編から成り立っています。

冒頭は「母の物語」、途中に「妹の物語」、最後は「祖母の物語」。それぞれ散文詩ですが不思議な世界へ迷い込みました。他の詩はこの3作品のサンドイッチになっていますが、ここにも作者の意図を感じました。

この詩集は2011年5月に思潮社から出版されています。定価は2400円+税です。

10月13日の中四国詩人会 岡山大会では、岡隆夫先生の講演「英米現代詩と私の詩論」と共に、くにさだきみさんと岡先生の対談も行われます。おもしろい話しが聞けそうで楽しみです。

各県代表による詩の朗読もあります。島根は閤田真太郎さん、鳥取は花房睦子さん、山口は竹原よしえさん、広島は長津功三郞さん、香川は宮本光さん、徳島は堀川豊平さん、高知は小松弘愛さん、岡山は武田利さん、則武一女さん、以上が現時点では予定されています。

アトラクションでは立石憲利さんの「民話の語り」があり、これまた楽しみです。

平24 県民文化祭「島根文芸」作品募集

2012年度の島根県民文化祭の一環として実施される文芸部門の作品募集がはじまりました。
7月2日から9月3日までです。入選した作品は「島根文芸」45号に掲載されます。ジュニア-の部もあります。小学生、中学生は募集要項を見たりするチャンスはありませんし、自発的に作品を書くことはまれでしょうから、学校の先生や親など身近な人たちがすすめてもらいたいものです。学校単位で応募するケースも増えています。是非参加してほしい。

 

県外に住んでいる人でも、島根出身者なら応募できます。
毎年表彰式やその後の詩の会に出ますが、詩の応募は30~40作品が最近の例です。昨年度は珍しく高校生や高専の学生さんが上位にたくさん入選されました。

高校演劇の創作について

昨年(平成23年)は二つの高校演劇の県大会を観劇しました。35回島根県高校演劇と51回広島県高等学校総合演劇大会です。講師として参加しましたのでパンフレットに原稿を頼まれ、字数は限られていますので箇条書きに創作劇について書いてみました。参考になればと思い紹介します。

創作劇を書いて学んだことなど

全国(中国、島根)高校演劇協議会顧問
劇研「空」代表、日本劇作家協会会員
洲浜昌三

部員や顧問が書く創作脚本の上演が主流になっている。昨年の広島県大会では13本中8本が顧問や部員の創作か潤色である。参考までに創作についてぼくの考えを書いてみる。

創作脚本の利点として次のようなことが考えられる:
1.部員の人数や一人一人の個性や特徴を活かして役をつくることができる。
1.地域性を活かしたり、その学校の問題やテーマを取り上げることができる。
1.書き上げたら部員で批評したり、いろいろな人に読んでもらって感想を聞き修正できる。
1.練習に入っても議論しながら台本を手直しできる。
1.身近なテーマだから理解や共感も深く統一意識を持って劇を仕上げていくことができる。

弱点も考えられる:
1.部員の人数や現状に合わせて書くので世界が狭くなる。
1.自己満足から抜け出せない場合がある。
1.客観的評価や批評を経ていないので上演したときの成果は未知数。
1.学校の現場は生徒も先生も忙しく、ぎりぎりになってでっちあげることが多い。
1.脚本執筆者に依存して部員は脚本を広く読まなくなる。

ぼくは新任の時は文芸部、次ぎに柔道部、転任したら演劇部顧問がついていた。劇は分からなかったので部員と一緒に汗を流すことにした。3年くらい既成の脚本を上演したが、文化祭では、観客は私語か安眠の時間。生徒の意識から遠い既成の脚本を上演しても意味はないことを実感した。次の年、地元の伝説を素材にして劇を書いた。好評でその年には5回上演した。以降退職するまで毎年書く羽目になった。
(島根県大会では松江工業、三刀屋、松江商業、松江農林、大社、出雲、安来高校が上演し、三刀屋の「ヤマタノオロチ外伝」(亀尾佳宏作)と大社の「生徒総会」(畑澤聖悟作)が代表に選ばれ、中国大会へ参加、中国大会では三刀屋が最優秀賞、安来が2位に相当する優秀賞を受賞しました。三刀屋は8月10~12日に富山県民会館で行われる全国大会に出ます。安来は春の全国高校演劇祭に出ました。)

創作劇を書きながらつぎのようなことを学んでいった。
①1時間の劇では言いたいことは一つ。
②劇がはじまって10分以内にテーマ(その劇で最も観客へ伝えたいこと)を立ち上げる。③自分のために書くのではく、観客のために書く
④観客は贅沢。5分も同じ状態が続けば退屈する。
⑤観客の層を考えて書くが、目の肥えた演劇人もいることも忘れない。
⑥執筆は剣道の試合の如し。相手(観客)の呼吸を計りながら打ち込む。
⑦芸術に説明は大敵。説明するようなセリフは使わない。
⑧小説のように書かない。舞台では言葉より行動や表現がはるかに効果を発揮する。
⑨書くときテーマを横へ拡げ過ぎない。深く井戸を掘ればいろいろな地層や水脈に出会う。
⑩観客の期待を裏切り揺さぶりながら展開していく。観客に先が見える劇はつまらない。⑪劇は激。山場では二つの潮流が激突し、予期せぬものが生まれたら最高。
⑫暗転が多いほど書くのは楽。上演したらプチプチ切れて観客の集中力もその度に切れる。
⑬ラストは難しいけど、急に道徳劇や予定調和劇にならないように。(以下略)

実際に皆さんの劇を観る時には、こんなことは忘れて、大いに楽しませていただきます。

5/27, 第41回 島根県詩人連合総会です

2012年5月27日(日)、大田市のパストラルで41回詩人連合理事会と総会を開きます。10時30分から12時までは理事会、13時からは総会、そのあとで「島根年刊詩集」40集の合評会を行います。

今回の大きな課題は、「続・島根の風物詩」刊行の件です。事務局長の川辺さんとはやり取りして原案をまとめましたが様々な問題点もあります。詩が詩人仲間だけで読まれている閉塞状態を破るために、ヴ・ナロード、詩を街へ、という思い切った姿勢で詩集を作りたいものです。いいアイデアを考えて出席してください。

季刊 『高校演劇』214号紹介します

「高校演劇劇作研究会」は130人くらいの同人からなる季刊の高校演劇脚本誌です。全国で創作を手がける有力な高校演劇の顧問や like me  のようにモトコもなどが同人です。全国大会前には分厚い全国大会号が出て同人の創作脚本が掲載されます。今年(平成24年)は同人である島根の亀尾佳宏先生の『異伝 ヤマタノオロチ』も載るはずです。今までの高校演劇で例のない出雲神話を素材にした意欲的な作品です。楽しみです。

読みたい人はこの『高校演劇』を買って読むしか手がありません。定期購読は1年分で6000円。色々な脚本が掲載されるのでとても勉強になります。1冊は700円、全国大会号は1500円。送料は別です。

2月のある日、事務局長の柳本博さんからメールがあり、213号の読後感を書いてほしいとのこと。了承したものの、書棚から取り出してみればベテランの脚本が並んでいる。恐れ多かったけど何度も読んで感想を書きました。字数が少ないので十分意を尽くせないところもありましたが、メールで原稿を送りました。先日214号が届きました。この本を読む人は限られていますので、本のPRを兼ねて、写真などとともに紹介させて戴きます。

『『高校演劇』213号 読後感                                   洲浜 昌三

『無心駅』                           宮島 宏幸  
無人駅で三人の女学生ギャルが体を売って稼いだ金を計算している。会話も露骨。真面目な奈美を仲間に誘う。父との不和で投げやりになっていた奈美は誘惑に負け、男と関係する寸前に逃げてくる。ヴォランティァで駅を守っている老女が、むかし家が貧しく売春をしていたと語り奈美を慰める。改心したかに見えたが…。場の設定もいいし方言も生き劇の組み立てもいい。売春問題に突っ込んだ勇気も買いたい。だがあちこちで人物が作者に都合よく動かされている印象が残る。他人に売春の経験を語るには血を吐くような必然性を仕組まないと「激」が額縁の風景になる。独創的な切り口がほしい。


『ビミョー』                         若林 一男
   「一秒先は闇」。そんな舞台を創ってみたい。それは無理でも作者はそれに近づこうとしているかのようだ。そのためにはあらゆる方法で観客のイマジネーションを搔き立て掻き乱し揺さぶる。異化、変化、落差、笑いは最大の武器。行動を先行させ台詞は説明臭抜きで短く即物的。複眼どころかこの作者は超複眼。脚本を読んでいるだけでも面白い。作者が演出すれば更に面白い舞台になることは過去に見た劇で立証済み。不登校の娘が吉川レンタルのバイトで家族を演じ、担任に語る言葉や祖父の言葉には深い真理が覗く。十一の場面から成る劇だが、観客にバラバラの印象を残す可能性はある。インパクトのある一つの宇宙を舞台に現出するためには各ピースを貫く透明な太い棒が欲しい気がする。

『ソフトなんか大嫌い』        市村 益宏  
脚本だけでは特に面白いとは思わなかったが、舞台で元気な高校生が演じるのを見たら間違いなく楽しいだろう。力強い合唱が何度もある。打順紹介も歌形式。ソフトボールの試合場面もある。きびきびしたリアルタイムの動きやテンポのいい会話の交錯。ダイナミックな動と静。幽霊になった三人の昔のソフトボール部員がいつも出てきてちょっかいを出し昔の部のことを語り単調になる流れを止め劇に奥行き出す。淡い恋もある。演じる者も楽しいだろう。最後の顧問の台詞は劇を平板化したかもしれない。幽霊さんを生かして劇を立体化できなかったか。(言うのはいつも簡単だ)


『みんなでロミオとジュリエット』   淺田 太郎  
名作の枠を利用して創作するのは面白い試みだけど難しい。枠を越える肉盛りに力量がいる。この劇はよく健闘していると思う。モンタギュー家とキャビュレット家の対立を、富丘高校演劇部と聖キャビュレット高校演劇部の対立に置き換え、台詞も重要場面ではシェイクスピアの台詞を再現して面白おかしく劇を展開する。枠の中に巧みに両校演劇部の対立や人物を融合させている。意外なストリー展開も面白く楽しい。高校演劇とは何か。それがテーマだが、大会にこだわり過ぎたり審査をやり玉にあげるなどは面白いが通俗に流れる気がする。

 

4つの舞台写真は『高校演劇』のグラビアから紹介させていただきました。最近はこのようにカラー写真が掲載されるので舞台のイメージが具体化されていいですね。

ホームページもありますので検索してください。本を注文したり問い合わせをされる場合は次のFaxでどうぞ。03-3930-8477  高校演劇劇作研究会事務局 柳本博

『続・人物しまね文学館』予約受付中です

山陰中央新報で連載された『続・人物しまね文学館』が本になり5月1日から発売されます。島根県詩人連合では販売に協力するため買取予約をしています。購入希望者は(島根県詩人連合会員でなくても可です)洲浜へ申し込んでください。送料は発送者が負担します。

 

詩人連合では100冊ばかり予約購入します。その中からすでに約70冊は購入希望があります。20冊注文という人もあります。冊数によっては割引も考えていますので電話かメールでお知らせください。 予約があれば振込用紙をお送りします。

大田市では市内の昭和堂書店で販売の予定ですが、同店では目下予約注文中です。

 

詩 原始の哲学者 ー掛戸松島ー

原始の哲学者 ー掛戸松島ー
洲浜昌三

洗われ
削がれ
失って
孤独な哲学者になった

今にも
倒れそうに
見えながら

強靱な
意志と
思考力と
宇宙感覚で
虚空に起立する

原始の
哲学者かのように

 

大田市波根町に掛戸松島があります。ろうそくの様な岩のてっぺんに松がはえていました。
枯れたので新に植えられましたが、それも最近枯れたようです。自然にはえた松が育ち始めているのが見えます。岩のてっぺんは6畳くらいの広さがあったそうですが、今はそれより狭くなっています。先日車で通ったので写真に写しました。岩の下部には穴が空いているそうですから、いつ倒壊するかわかりませせん。しかし倒れそうに見えながらしっかり立っています。見る度に哲学者だ、と思います。

近くに看板が立ててありましたのでパチリました。今の波根や久手の田園地帯は広い湖でした。湖が増水して被害が絶えないので鎌倉時代に岩を掘削して湖の水が流れるようにしたそうです。

島根の詩人 閤田真太郎

山陰中央新報が連載していた「人物しまね文学館」が2012年2月24日の村尾靖子さんで終了しました。その前の2月17日には浜田の詩人・閤田真太郎が掲載されました。それを少しだけ追加して紹介します。文中の写真は参考のために載せたました。新聞では顔写真だけです。

      
ー開拓の重い生を歌う詩人   ー       閤田真太郎    
                                                   洲浜 昌三

国道九号線を車で西に向かい江津、都野津を過ぎると、やがて右手に波子海岸が開けてくる。左手に水族館アクアスを見て道路に架かる近代的な陸橋をくぐると、そこは浜田市久代町。日本海を見渡すと広い湾の両端に柿本人麻呂が詠んだという「からのさき」が見える。左が斉藤茂吉が想定した浜田市国分町の赤鼻。右が沢潟博士が指定した江津市波子町の大崎鼻。

「二つの岬に抱かれた海岸線は東西に四千米/息子よ/標高六十米のこの赤土の丘に立てば/おまえの産土の土地と/これだけの”もの”が一望の許に見える/西へ眼を移動していくと/微かな水平線の描くふくらみが見える/略/十六歳の暑い夏/父はしばしば その地球とたわむれたものだ/」(「一行の言葉」の一部)

この一帯は一昔前まで荒涼とした砂浜だった。  敗戦の翌年の1946年、12歳の閤田真太郎は家族6人で朝鮮から引き揚げてきた。父は朝鮮運送会社の幹部で出身は石川県だったが、病弱な妻子のことを考え、上府町の妻方の親戚へ身を寄せ、翌年この久代開拓地へ入植した。  家族全員で働いた。有機物のない砂地へ山から土を運んだ。水おけを担ぎ深夜まで潅水した。篠竹を並べた垣は強い季節風ですぐに埋まり、その上へまた垣を作った。食料もなかった。

「汝は毎日何を食べて生きているや?/御飯ですがー/どっと失笑が湧く/ごはんだと∥おまえんとこは∥未成南瓜の浮いた/おかゆだろうが∥(略)村にあふれたソカイ者は/村にぶら下がる引揚者たちは/米の飯など喰える筈もない」(「ごはん」)

十年ばかり芋と麦が主食だった。杉皮の屋根から雨漏りがした。過酷な環境を切り開いていく父を尊敬した。その父が75年に他界。2年後、父・真三郎の霊に捧げ、詩集『背後の瞳』を益田の白想社から出した。

「その人はもう居ない/だが 丘の上にいつも居る/時には 巨人のように立っている/略/そのひとの 大きな眼差しが背を灼く」(「丘の上のひと」)

そこもうにいなくても閤田は背後に父の瞳を意識する。父は大きな存在だった。

幼い時から本が好きだった。中学2年頃から詩を書き、10代後半に本屋で『詩学』に出会い投稿し始めた。浜田高校文芸部にいた弟を通して、浜高在学時は文芸部長だった山城健を知り、同世代の文学の風に触れ文学書を乱読。草野心平や萩原朔太郎など詩集は徹底的に読んだ。

36歳の秋、偶然汽車の中で「石見詩人社」とネームが入ったリュックを背負った詩人キムラ・フジオに出会い同人になった。「黙々と作詩していた氏は僕が評言を挟む余地のない完成した詩人だった」(キムラ)。

精力的に詩を書き発表し始めた。個人誌『からのさき通信』を出し、『潮流詩派』や『垂線』に一時所属、95年から東京の甲田四郎らと『すてむ』を創刊した。

(「すてむ」149号の表紙。同人は甲田四郎、川島洋、田中郁子、松尾茂夫、水島英己、長嶋南子など12名。発行所は143-0016大田区大森北1-23-11甲田方 すてむの会)

1974年に第Ⅰ詩集『冬の蛙』を出し、”その細密画に狂気と魔法を感じた”という池田一憲との出会いから詩画集『博物誌』が生まれ、その後『かんてらのうた』『脊椎動物の居ない土地から』を出した。

高踏な思考や知識、才気から生まれた難解な詩もあるが、そういう場合も大地と闘ってきた開拓者の重い生が詩の底流にある。

1975年から二代目島根県詩人連合理事長を三年間務め(現在は理事)、1990年には日本現代詩人会会員になり、中四国詩人会発足と同時に会員になった。

地域との結びつきが強いのも閤田の特徴である。1972年に石見詩人同人の熊谷泰治や大野卓、青笹信夫らと図書館で「詩情展」を開いた。これが「子どものうたを育てる会」に発展。石見文芸懇話会のバックアップを受け、多いときには千点以上の小中学生の俳句、短歌、詩の選をし『石見のうた』にまとめ、三十集まで刊行した。現在、石見文芸懇話会事務局長、浜田市文化協会副会長、浜田市土地改良区監事。地元の消防団や青年団では副団長も務めた。

 (富田砕花賞受賞式の写真ですが、テレビの画像を写したので輪郭が不明確です。受賞者は閤田さんと神戸の永井ますみさん。永井さんは米子の出身です)

2010年に第六詩集『十三番目の男』を出版した。縄文から現在に至る村の歴史を語る遠大な視野の散文詩などは饒舌だがインパクトがあり、苦楽を共にした母と妻を追悼した詩などは心を打つ。この詩集は「感動的な農民詩集」と評価され、第21回富田砕花賞を受賞した。

開拓農民として土地や風物、そこいに生きる人々の生を凝視しながら、閤田は、水平線の彼方に「全円の地球」を見ようとする知的でスケールの大きな詩人である。

(浜田で開かれた「石見詩人」の合評会で閤田さんとくりすさん。富田賞受賞のお祝いもしました)

新聞の紙面を紹介します。

連載された58人の島根ゆかりの文人は本になって5月初旬に発売されます。 目下3次校正が終わったところです。要請を受けて島根県詩人連合では『続・人物しまね文学館』を買取ることになっています。定価は1600+税80円。希望があれば(送料等は当方負担)お送りします。どんな人物が取り上げられているかについては、そのうち紹介します。