「昌ちゃんの詩の散歩道」カテゴリーアーカイブ

H26,5/25 詩人連合総会、『島根年刊詩集42集』合評も

平成26年度の島根県詩人連合総会を5月25日(日)13時から大田市のパストラルで開催します。それに先だって、10時30分からは理事会を開きます。協議事項は、役員選出、事業報告、決算予算、しまね文芸フェスタ2014(大田市「あすてらす」で開催)、『しまねの風物詩Ⅱ』の刊行について。

終わってから、年刊詩集の合評会を開きます。『島根年刊詩集』は42集となりました。残念ながら高齢者が増え、年ごとに参加者が減少していきます。若い人に参加してほしい!

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目次を紹介します。島根県高等学校文化連盟文学コンクール「詩の部」で入選した優秀作品も掲載しています。松江農林の船木さん、松江東の鈴木さん、吉賀高校の藤永さん、松江東の谷本さん、益田高校の森本さん、平田高校の伊藤さんの作品です。若い感性がさわやかに光っています。

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事務局は安来市飯島町1842  島根県詩人連合事務局長 川辺真です。

希望があればお送りします。メールでもいいですし、電話(82-3040)でもかまいません。大いにベンキョウします。詩など読む人がいない時代に、読んでいただけるだけで最高です。

来年のしまね文芸フェスタは、詩部門が担当になります。講師を誰にするか、今から検討しておかなければなりません。

H25 中四国詩人賞、壷坂さん 木村さんへ(香川大会)

第13回中四国詩人会香川大会が10月5日、髙松市のリーガホテルゼストで開催されました。香川県は会員が少ないのでいろいろな面で大変だったとおもいますが、宮本光さんのご尽力により実現し成功裏におわりました。決算、予算、行事計画を了承し、中四国詩人賞の受賞式がありました。

DSC05002(山本会長から賞状を授与される壷坂さんと木村さん)

第13回中四国詩人賞は壷坂輝代さんの『三日箸』と木村太刀子さんの『ゆでたまごの木』でした。どちらの詩集も素晴らしく差をつけることができなかったようです。山本衛会長から賞状と副賞が授与されました。

選考委員長・岡隆夫さんの選評をニューズレター34号から引用します。

壷坂輝代詩集『三日箸』:
「つい見逃しがちな「箸」という日常茶飯の小さな素材をわれわれ日本人にとっては重要な生き様の基本として取りあげ、その様々な局面を風俗の面から、あるいは歴史的局面から掘り下げ、ひとつの特色ある文化の体系としてまとめている。その無駄のない凛とした詩行も多とすることができる」

壷坂さんの詩集は書棚にありますので紹介します。理知と感性のバランスがとれた完成度が高い詩です。詩人だけではなく一般の人が読んでも多いに感じるものがある詩集です。

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木村太刀子詩集『ゆでたまごの木』:
「一見奇異な発想に思われるが、戦後の貧しい体験に基づくものであり、そのなかにありながらも将来の夢につながるヴィジョンとして描かれていることがうかがえる。エッセイ誌の編集発行者でもある木村氏の詩行には、如何にすればより優れた詩行になりうるかという芸術的な意識が感じられる」

詩集は読んでいませんが、一篇だけ詩を読みました。散文詩でしたが遠くまで神経と感性が行き渡っていて読者を遠くまで連れていってくれます。フィクションもありますが、そのフィクションを埋める言葉の豊かさ感性の高さはには大いに感じ入りました。

「不運にも次点となった、くにさだきみ詩集『死の雲、水の国籍』は戦争の惨劇を大胆な比喩によって深く堀下げており、他に類を見ない。選考委員は今回も辛い選択を強いられたことを付言したい」

( 選考委員:小松弘愛、咲まりあ、蒼わたる、宮本光、岡隆夫。陪審として山本衛会長、萱野笛子事務局長、長谷川和美書記が参加)

三詩集共に個性と独自性があり、しかもレベルも高い詩集です。差をつけるのは難行だったことがよくわかります。

朗読は中川さん、牧野さん、渡辺さん、川辺さん、川野さん、秋吉さん、大森さん、鷲谷さん、吉川さんでした。山口の秋吉康さんは2012年12月に出版された『隣にいた人』から朗読されました。味わいのあるいい詩集です。

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講演の講師は宮崎市在住の南邦和さんで、「韓国の歴史風土と文学事情」。講演を聞いてとても勉強になりました。日本が支配し日本語を強制した暗黒時代の空白は今も根強く残っているという指摘には胸が痛んだ。韓国の事情にとても詳しく貴重な時間を過ごすことができました。声量があり、発声がとてもいいので、親睦会のとき、そのことをいうと、演劇などにも深く関わっておられるそうで、なーるほど、そうだったのか、と納得しました。

南邦和さん
翌日の文学ツアーは平賀源内の記念館、古代の山城などを訪ねました。源内のことは少しは知っていましたが、凄い人ですね。源平合戦で屋島の戦いが行われた場所を眺めましたが、当時の湾はかなり埋め立てられて住居地になっていました。空想だけだった屋島が具体的な風景として頭に残り、今後は大いに源平合戦の舞台背景として役にたつことでしょう。

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DSC05024 (屋島です。熊谷直実が若い平家の武者・敦盛の首を取った場所でもあります)

26年度の大会は広島県尾道市で、9月27日(土)に開催されます。会長は四万十の山本さんから、尾道の高垣憲正さんです。山本衛さん、おつかれさまでした。

DSC05017(この写真は平賀源内記念館の近くです。あまりにも海の色がきれいなのでパチリ!名所ではありませぬ)

9月28日には大田市で「しまね文芸フェスタ」が開催されます。ぼくが欠席して尾道へ行ったら顰蹙をかうことでしょう。アーサー ビナードさんの講演も聞きたいけど、残念でーす。

 

詩集「港湾の詩学ー詩人の港・詩人の海ー」

おもしろい詩集が発行されました。港や海をテーマにしたアンソロジーです。発行人は京都の詩人、すみくらまりこさん。公益社団法人日本港湾協会の研究奨励助成を受けて刊行されました。大いにPRしてください、と案内書にありましたので紹介します。

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(島根の港)があります。洲浜昌三?・・・・ホンニンじゃないですか。この島根の港だけ詩を紹介しましょう。石見銀山考として歴史を素材に書いている中の一編です。湯里の人の話しでは、子供のときには古龍で泳いでいたそうです。いまは草や木が生い茂っていて道もわかりません。

古代へ帰った港                      洲 浜 昌 三

日本海の荒波を遮断した細長い湾は
両岸を緑の樹木に囲まれ
藍色の水を湛えて ひっそりと横たわっていた

ここには
船もない道もない家もない人もいない
もやい綱を結びつけた鼻ぐり岩の他には
人工の構造物も岸壁もない

石見の守護、大内氏の「大内義隆記」に
「唐土(もろこし)、天竺、高麗の船が来た」と書かれ
銀鉱石を博多や朝鮮へ運び出した港・古龍

大航海時に 世界の銀の三分の一を産出し
ポルトガルの古地図に名が残る石見銀山

豊かな海に恵まれ
太古から大陸の文明を受け入れてきた島根
その中央で世界に開かれていた日本の表玄
関 湯里の港・古龍
馬路の港・鞆が浦

「士稼の人数二十万人、一日米穀を費やす事
千五百余石 車馬の往来昼夜を分かたず」
「津々浦々四方の大船に競ひ繋ぎ~」
と「銀山旧記」に書かれた石見銀山

山を越え銀鉱山の町・大森へ物資を運ぶ牛馬の列
蔵が並び北前船でひしめき合った
温泉津の港・沖泊

日本海に面し東西に長くのびた山陰、島根
そこに90の港があり全国で三位だという
その中に三つの港はもうない

「古龍千軒」といわれた古龍の港は
一足先に古代へ帰ってしまった

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最後に発行所などを載せておきます。いろいろな視点、角度、形式で個性豊かな海や港とのかかわりが詩として描かれていて楽しめます。

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H25 しまね文芸フェスタで 安原 葉先生講演

9月23日、出雲市のビッグハートで「しまね文芸フェスタ2013」が開かれました。開会式では出雲市長も挨拶されました。今年度は俳句が担当になっていて月森遊子さんが会長として挨拶されました。

講演は「ホトトギス」同人の会長・安原 葉先生。「花鳥諷詠のこころ」と題してとてもいい話をされました。1932年生まれですが背筋は伸びシャキッとしておられます。虚子などを実際にご存知なので、エピソードの中身も濃厚で貴重な歴史が含まれています。「虚子は寡黙な人でしたが、人の心を見据えるような力を感じた」そうです。H25 安原 葉先生

花鳥諷詠は単なる自然を読むことではなくもっと深いものがある。「虚子が晩年によく説いた存問とは、相手の心を深く察し、謙虚に素直に相手との心を通わせる心持ちが込められている。自身との存問、人との存問、自然との存問、宇宙との存問、超自然との存問。その存問の心を持って客観写生の技を磨き、花鳥諷詠を実践するのが俳句の道であることを虚子は示した」と語られました。例にあげられた有名な俳句の解釈はとても深く虚子の宗教観や宇宙観が背後にあることを説かれました。

前日の夜は歓迎会があり、終わって俳句の人たちと二次会へ行き大いに語り楽しい時を過ごしました。

23日の午後は分科会で、詩の参加者は少なかったのですが、京都から有馬矯さん、神戸から永井ますみさん米子の中村さんなども参加され、楽しい詩作詩朗読会になりました。

有馬敲

有馬さんの「せみ」は同じことばのくり返しですが、とても素敵でした。ちょっと誰も真似ができませんね。音をやリズム重視して詩をつくられる有馬さんならでは異色な詩であり朗読でした。一度聞いたら耳から離れません。

永井さん (1)

永井さんの朗読は微妙な音やリズムの変化も表現される力量があり、これまた素敵でした。きっと発声や発音の訓練も積んでおられるのでしょう。詩も深みがありました。島根の詩人の詩もそれぞれ個性的でよかったと思います。
H25 文芸フェスタ 詩

小林さん岩田さん中村さんは都合で帰られました。有馬さん、奥さま、永井さん、中村さん、シライシさん、ありがとうございました。おつかれさまでした。

(一昨日、有馬さんの最新詩集「晩年」を拝受しました。一気に読みました。京都弁の詩、いいですね。抵抗がありません。晩年を迎えた有馬さんのとらわれのない自由な精神が印象に残りました)

短詩 「たからもの」「おまえの母さん」

たからもの    洲 浜 昌 三

藤づるのバスケットに手を伸ばすと
「だめ!」
遠くから走って来て取り返し
鋭い目でアヤちゃんは僕をにらみつける

外で遊ぶときも
町へ行くときも
大切に持ち運ぶ小さなバスケット

見られたら価値がなくなるもの
そんなたからものが僕にもあった気がする

夜 ぐっすり眠っているすきに
こっそりバスケットを開けてみると
小石が五つ
もみじの葉が三枚

おまえの母さん
洲 浜 昌 三
保育所で日々新しい知恵を授かる
三歳のアヤちゃんは
今日も新しい武器を手に入れて帰る

ふとしたすきに人形を取られさっそく一撃
「おまえのかあさんでーべーそ!」
ことばで反撃できない一歳のヒロちゃんのため
おやじがケンカを買って反撃する
「おまえのかあさんでーべーそ」
「ちがう! おまえのかあさんでーべーそだ」
「おまえのかあさんがでーべそだ」
「でべそじゃない! でべそじゃない!」
叫びながら涙の小川が二筋三筋

(今までこどもの詩を意外にたくさん書いています。この詩は「きれんげ」に書いたものです。現代詩とかなんとか小難しい意識はまったくなく、こどもを見ていてふと心を動かされたことをメモしておいて、あるとき机に向かって詩にしたものです。素直に書いているので自分でも読むと素直な気持ちになり、ほのぼのとしてきます。

このブログの読者は70%以上が new visitors です。何故かここ数ヶ月前からいつもグラフで「詩」が上位を占めています。詩など読む人は詩人しかいないといわれているのですが、ここに書く詩は分かりやすいからでしょうか。詩がもっともっと一般の人に広まっていくことを願って書いているのですが、有名人のブログなら regular visitors がいて毎日多くのファンが読むのでしょうが、そうでもないこの地味なブログに立ち寄ってくださる人がいるとはうれしいことです。短くて分かりやすい詩を紹介するようにしています)

10/5 13回中四国詩人会香川大会

第13回中四国詩人会大会は2013年10月5日(土)香川県髙松市のリーガホテルゼスト髙松で13時30分から開催されます。参加費は会員も一般参加者も1000円、学生は500円。14:15まで総会ですが、そのあとは中四国詩人賞表彰式、自作詩朗読、記念講演、懇親会とつづきます。

記念講演は「韓国の歴史風土と文学事情」という演題で南 邦和さんが話されます。

中四国詩人賞は今回は2名で壷坂輝代さんの詩集「三日箸」と木村太刀子さんの詩集「ゆでたまごの木」が決まっています。当日は朗読もされます。

翌日は文化観光。源内記念館、志度寺、山頭火句碑、屋島、源平古戦場などを巡ります。一度も行ったことがないので楽しみです。14時30分、髙松駅解散です。島根から川辺さんが自作詩朗読の予定です。島根の詩人のみなさま、ぜひご参加ください。

詩 「何を残しただろう」

何を残しただろう                    洲 浜 昌 三

戦後の貧しい村の小学校や中学校で
欠席する理由は四つしかなかった
「病気」「手伝い」「貧乏」「怠け」

手伝いもないのに元気な子が学校へ来なければ
当然「怠け休み」
最大の恥だったからみな休まなかった

教師になり二十数年たった時A君と出会った
遅刻欠席がつづき 何度注意しても同じことの繰りかえし

習慣化した怠けに活を入れようと 放課後 家を訪ねると
布団の中でマンガの読書中

「こんな時間に何をしてるんだ!目を醒ませ!」
意識的に声を張り上げたが
期待した反撃の言葉は返らずしばし静寂
いつもの素直な優しい表情でうつむいている
「…あしたは来るよね」
「はい」

初めて目の前にした心の深い闇
初めて向かいあった新しい欠席
行きたくても行けない 「不登校」

遠くへ行ったA君よ
元気か ー

ぼくの古い武器は
深い傷を更にえぐっただろうか

分厚い壁に裂け目ができて
青空が見えるようにならなかっただろうか

 

大田市文化協会が発行している「きれんげ」107号に頼まれて書いた短詩です。ここではちょっと修正しています。
今までにない欠席と初めて出会ったときの戸惑いは今でも忘れません。まったく未知の精神文化と出会った戸惑いでした。怠ければ叱る、という日本古来のしつけの武器は通用するどころか逆効果を生むことになったのです。あのころから日本の文化も変わっていったようにおもいます。
 

9/23 出雲で「しまね文芸フェスタ2013」

2013年のしまね文芸フェスタは出雲市の「ビッグハート出雲」で開催されます。俳句、短歌、川柳、詩、散文の5部門で運営委員会、実行委員会を何度か開いて準備を重ねてきました。今年の担当は俳句部門で会長は月森遊子さんです。講師は「ホトトギス」同人会会長、安原 葉先生。演題は「花鳥諷詠のこころ」。島根にいても、毎年第一線で活躍されている人の講演を聴けるのはありがたいことです。

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前日の夜は例年どおり前夜祭として講師先生の歓迎会があります。ニューウエルシティ出雲、18時からです。

大会当日の午後は分科会です。その内容は次のとおりです。見えにくいけど見たい人は見てください。

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詩の分科会では自作詩の朗読・鑑賞と感想会です。事前に作品を30部事務局へ送るか、当日持参してください。

今年は神戸の永井ますみさん、京都の有馬さん、米子の中村さんが参加される予定です。神戸の宮川さん、白石さんも来られるかもしれません。永井さんは米子の出身で現在神戸で活躍中です。詩も随筆も書かれますが、朗読をビデオに収めてDVDにするために数年前から全国を走り回っておられます。有馬 敲さんもキャリアのある大ベテラン。中村さんは一日一作を課して詩をブログで発表し、過日詩集を出版されました。

こんなに一度に県外の詩人が参加されるのは初めてです。県内の詩人のみなさん、また参加されるみなさん、大いに楽しみにして参加してください。

H25 「島根年刊詩集」第41集刊行

2013年3月、「島根年刊詩集」第41集を刊行しました。92ページ、31人が参加しています。
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島根県の川本町生まれで長崎に在住のH賞受賞詩人・高塚かづ子さんも参加されました。「ケリケリナ・コンストリクタ」という深みがあり示唆に富む素敵な詩です。中村梨々さんも初めて参加、「父の庭」という随筆を書いておられます。中村さんは現在は益田市在住で、昨年詩集「たくさんの窓から手を振る」を出版されました。

長年「山陰詩人」で詩を書き、年刊詩集にも欠かさず参加された松田勇さんが逝去され、田村のり子さんが心のこもった追悼記を、川辺さんが心に沁みる追悼詩を書いておられます。

個性的で多様な作品があるので、楽しく読めます。定価は1500円。希望があればお送りします。

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「竹久夢二特集号」出版 花美術館

竹久夢二のファンは全国にいます。昨年夏、中四国詩人会大会の翌日、文学訪問で詩人の正富汪洋と夢二のふるさとを訪ねました。二人は幼友達で、家の裏の低い丘をこえれば、汪洋の家が当時はありました。夢二の家の庭から瀬戸内海方面の広大な田園風景風景に明治時代を重ねる、夢二の少年時代を想像すると、見えてくる懐かしい風景がありました。
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瀬戸内海が見下ろせる牛窓神社へいくと、夢二がよく来て、じっと見つめていたという江戸時代の絵馬・旅芸人の絵も見ました。

数ヶ月後に花美術館が、夢二の特集号を出すというので詩の誘いがありました。当初はまったく乗り気ではなく断ったのですが、ある朝、ふと「夢二の詩をかたらどうだ」という啓示のようなものがあり、書いてみました。出来るだけ、夢二が本や日記などの中で使った言葉を使って書いてみました。
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本はたくさん写真や資料がある豪華本で、3千円してもおかしくないほどですが、1200円です。夢二ファンには手や足がでそうな魅力があります。大田では昭和堂書店に少しだけあります。

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その詩を紹介してみます。普通、詩は詩人仲間で読まれるだけで一般の人はほとんど現代詩を読むことはありません。この本は現代詩とは関係無いので詩人で読む人はほとんどいないはずです。分かりやすい詩ですから読んだ思わぬ人から電話などがあり驚きました。

 

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さて、上記の詩は一行の字数や全体の字数に制限がありましたので、ちょっと自由な気持ちで手を加えてみました。これは「石見詩人」130号に載る予定です。

どこかにあったなつかしいもの
ー 竹久夢二によせて ー   

洲 浜 昌 三

太古からつづいた木と草と土と紙の家が
鉄とコンクリートと電気の騒音の街になり
新しい思想が流れ込み夢が語られ自由が叫ばれ
気がつけば集団の軍靴の音が近づいてきて
あっという間に菫(すみれ)や女郎花(おみなえし)を踏みにじって行った
そのむかし

「詩はパンにならず画家になった」
あなたの美人画や草画は飛ぶように売れ
多くの名前がつけられた
「大正ロマンのシンボル」
「大正の歌麿」
「叙情の詩人画家」

夢と美を求めて自由奔放に生きた
あなたに送られたもう一つの名前
「華やかな女性遍歴の芸術家」

哀愁や憂いや哀しみを湛えた夢見るような大きな瞳
着物を着崩した身体をしなやかにくねらせた肉感的な姿態
伏し目がちに誰かを待っている弱々しくやつれた女
木の下に座わり遠くを眺めている少年と少女の後ろ姿

どこかにあったなつかしいもの
きえていくなつかしいもの

格子窓の彼方に広がる緑の水田と遠い山並み
海へつづく街道を往来する巡礼や旅芸人や薬売り
神社で見上げた江戸の絵馬「お陰参りの図」の旅姿
泣く時にいた優しい母 遊ぶ時にいたよき姉
蔵の二階の書物にあった平安朝の雅(みやび)な宮廷生活
姉の小箪笥からこっそり懐へ忍ばせた美しい布キレ
土蔵の前の椿の下で聞いた紡車(つむぎくるま)の音

きこえてくる忍びなき き
こえてくる勇ましいこえ

骸骨になった夫が白衣姿で立つそばに
悲しみに泣く妻のコマ絵を描いたこともあった
「自由や革命を低唱し伏し目がちに銀座を歩いた」ことも
秋水らの処刑を知ったときには衝撃を受け下宿で通夜をした
「絵筆折りてゴルキーの手をとらんに
はあまりにも細き腕とわびぬ」
と新聞に書いたこともあった

将軍や立身出世を鼓舞する絵は一枚も描かなかった
凱旋する楽隊を描いても後に負傷兵と泣く女がつづいた
本格的な油絵も描いたが生涯どこにも属さなかった
軍靴はあなたの叙情など踏みつぶし
「軟弱な色道画家」を吹き飛ばしていった

「ありがとう」
と信州の療養所で遠い世界へ旅立つまで
あなたは庶民を通して描きつづけた

どこかにあったなつかしいもの
きえていくうつくしいもの
ここにはないどこかにあるもの

夢二が書いた詩や日記や小説を読み、夢二を論じた本を読んでこの詩を書いたのですが、夢二の心情が僕なりによく理解できた気がしました。ドイツへ行ったとき、ナチスの軍隊の鉄兜に不気味な未来を見、同時にドイツとの盟友日本に不安を感じたと日記に書いています。単なる叙情詩人画家ではないところに夢二の絵の人物の「哀しさ」がただよい出ているのではないかと思いました。