新聞によると2011年7月2日に第4回石見銀山文化賞表彰式が中村ブレイスで行われ、ノンフィクション作家の千葉望さん(東京都在住)に文化賞、故石村勝郎(禎久)さんに特別賞が贈られました。この賞は中村俊郎社長が世界遺産登録一周年と創業35周年を記念して2008年に創設されたもので、昨年は石見銀山天領太鼓が特別賞を受賞しています。文化活動の重要性を考えてこのような賞を設けられた中村社長に敬意を表するものです。また石村さんの業績が評価されたことをとてもうれしく思っています。
石村さんは石見銀山や三瓶、石東の歴史にについてたくさんの本を書いておられます。9日の山陰中央新報の明窓では著書は20冊に及ぶと書いています。出版の度に買い求めてきましたがとても示唆に富み参考になります。実証的な歴史書ではないために歴史家はいつも距離を置いて冷ややかな見下す目で見ていますが、ぼくなどはそこがとても面白く示唆に富んでいて空想を刺激してくれます。
(右端の本は、竹下弘氏が長年執筆された銀山の歴史をまとめ中村社長が中村文庫として出版された『私説 石見銀山』貴重な本です。左の12冊は石村勝郎さんが出された本。貴重なこともたくさん書かれていますが、創作という視点でよむと創作欲を刺激されることがあちこちにあります。詩人だったからですね。)
考えてみれば石村さんは毎日新聞の記者でしたが、詩人としてスタートされたのです。最近島根の同人詩誌を調べましたが、昭和16年6月に島根の詩人が松江へ集まって島根県翼賛詩人会が結成されたとき、吉儀幸吉、門脇真愛氏とともに石村さんは幹事に選ばれています。10月8日には島根県翼賛歌人会と協力して『勇士に捧ぐ』という詩歌集を作って国立病院などに送っています。詩は33篇、短歌は231首あったそうですが、貴重な本はどこかにあるでしょうか。是非手にしてみたいものです。この会では毎月松江の千茶荘へ集まり『作品』というガリ版の詩誌を機関誌として6号くらいまで発行したそうですが、石村さんの家にはあるのでしょうか。貴重です。
石村さんは昭和20年に招集令状がきて薩摩半島の南端、開聞岳のふもとで終戦を迎えるのですが、「詩にうたった皇軍の姿、日本軍の姿、それはイメージとは余りにもかけ離れていた。上も下もエゴイズムのかたまりだった」と書いています。
昭和21年元旦を期して詩誌『詩祭』の創刊号を出版。今井書店に定価2円50銭で委託してすぐ売り切れたとか。文化に飢えていた時代だったからでしょう。同人も会員も2円50銭で、紙が手に入らない時代に8月までに6冊を発行。石村さんは松江から大田へ転勤になり、『詩祭』は財政難もあって廃刊になりました。
大田の毎日新聞通信部勤務となった石村さんは大田で『司祭』を出しました。表紙は民芸紙、中身の紙は三隅町から取り寄せた石見半紙。「滝川共や山根フミがいい詩を寄せた」と石村さんは書いています。30ページほどの紙誌ですが2号で廃刊になり、詩誌『エンピツ』を発刊しました。これが何号まで出たのかわかりません。持っている人がいれば是非ぜひゼヒ貸してください。大田の詩誌の記録としてまとめてみます。
石村さんは石見詩人へもたまに詩を書いていました。しかしぼくは当時石村さんが情熱的な詩人だったことをまったく知りませんでした。そのうちいつかゆっくり話を聞きたいと思っていましたが、当時は多忙を極めていましたし、偉い人の時間を奪うのは失礼だと卑屈な姿勢でしたので、年賀状のやりとりや簡単なハガキの交換くらいしか交流はありませんでした。今思えば残念です。2001年に85歳で他界されました。
上の詩集は昭和52年10月に自費出版されたものです。哲学的な短詩、三瓶、石見銀山など地元の歴史をうたった詩、成人式などで朗読された詩など43篇載っています。
以前島根県詩人連合で『島根の風物詩』を刊行したとき、石村さんの詩も数編検討したことがあります。独自性が少し弱い気がしたのでこのときには採録はしませんでしたが、目下続編を発行する計画が進行中なので再度石村さんの詩も検討してみるつもりです。
石村さんは貴重な詩誌や本などをたくさん所蔵しておられたはずです。いつか見せていただきたいといつも思っていました。新聞では大田市在住の二女石村京子さんが受賞式に出席されたと書いてあります。「こつこつと頑張ってきた父を誇りに感じる。天国で照れながら喜んでいると思う」と京子さんの談話が載っています。
ああ、やっぱり照れ屋だったんだ、とあの端正ではにかんだ青年のような笑顔を思い浮かべています。お孫さんは大田高校でちょっと教えたことがあります。演劇もちょっと手伝ってくれたことがあります。いまどこにいるのかな。元気で活躍していることでしょう。おじいさんの受賞おめでとうございます。
石村さんが山陰中央新報の地域文化賞を受賞されたときお祝いの手紙を出したことがあります。お礼の返事がきましたが、その中に書かれていたことを思い出します。 いしむらさん、おめでとうございます。