2010年1月、石見詩人同人の閤田さんが詩集「十三番目の男」を砂子屋書房から出版されました。浜田市久代町の海辺で農業を営みながら詩を書いてこられました。これは第6詩集になります。
これまでの詩集を表紙で紹介しましょう。『博物誌』は詩画集で池田一憲さんが独特の濃密な絵を描いてる個性的な詩集です。
次の文章は「石見詩人」125号へ書いた感想文です。
詩集『十三番目の男』を読んで 洲浜昌三
「1月21日にこの詩集を流し読みしたとき、次のようにメモしている。
「言葉が引きずっている存在の重さを感じた。言葉がつり下げているものの重さ」
5月22日に再読したあとで、次のようにメモしている。
「とてもいい詩が多い。大自然の土と格闘して生きてきた重厚な生が哀感とともに伝わって来る。その土着的で人間臭い泥臭さと同時に、高い志や知性、知識欲が作品の端々に感じられ、その知性を支えるエネルギーが熱となって伝わってくる。後者が作者の本質だったのかもしれない、とふと思った。
作者の父は戦後の経済的に苦しい時代の中で開拓農民という道を選んだ。朝鮮から引きあげると、作者は長男として父親と生を共にせざるをえなかった。もし学問の道を許されていたら高い知性の成果を残したかもしれない。しかし実際は過酷な開拓農民という現実の中でそれを飼い殺し状態にしなければならなかった。
この詩集を読み終わったとき、かけ離れた両極から生まれた作品が、ぼくの思考や想像を地から天まで運んでくれる楽しさを味わった。ユーモアがいままでになくあちこちで顔を出し、自虐的に斜に構えた姿勢が見えたり、孤独な横顔や空虚感、哀感が漂う作品が多いのも印象に残った。」
6月の15日頃から数日かけて丁寧に読んだときには次のようなメモを書いている。
「理には理で読むので詩の世界が狭くなる。知識や理屈で一つの詩の世界を創ろうとすると、その中に不合理な論理や偏狭な知識、作者の思い込みが入っていれば読者はつまずいたり反発したり自己葛藤が生じる。詩は論理や理を越えたところに生まれる世界。論理的に知識を積み上げてもそこに到達していなければ論文やエッセイで書いた方が説得力が生まれる。インタービュー形式や会話形式で書かれた詩の質問は応答者が予期し期待している範疇の作者合意のなれ合い質問。ペダンティックな詩に対するてらいや斜に構えた自虐敵発想から出てきた言葉が多く詩の緊張感や品位を下げているかもしれない。」
3回も読むと違った角度で読むからだろうか。これが同じ詩集に対する感想か、と我ながら疑いたくなるが、すべて「十三番目の男」に対する感想である。どこに比重を置いたて書いたかの違いに過ぎない。
四回目に読めばもっと掘り下げて詩とは何かという観点から書くかもしれない。
(石見詩人の合評会で撮影。右は、くりす さほさん。つい最近詩集『いつか また』を浜田の石見文芸懇話会から出版されました。感性豊かな詩がたくさん載っています。そのうち紹介しましょう。)
この詩集はⅠ、Ⅱ、Ⅲと三部に別れていて、ⅠとⅢは身辺の素材から生まれた詩が中心であり、共感できる詩がたくさんある。特に大きな存在だった作者の父、同じ月に2人の命を見送った母親と奥様を素材にした詩は胸を打たれる。
Ⅱは詩集の表題になった「十三番目の男」(続・又を含め同じ題の散文詩三作品がある)を中心に構成されている。ここを中心に読むとどうしても理屈や理論で対抗したくなるし、作者の意図や理解を問いただしたくなることに度々出会う。
作者はこのⅡを中心にして詩集の顔にした。なるほどと納得する点はあるが、一冊の詩集をつくるとき、どういう詩を載せるか、どうゆう配列にするか、どうゆうタイトルをつけて顔にするか、という点でもいろいろ考えさせられた。
『十三番目の男』というタイトルはダイナマイトのように強烈である。映画か本にあったような気もする。十三階段とも結びつく。何が書いてあるのだろう、という興味もそそる。その点では「やるもんだな」と感心する。しかし詩集を読み終わったとき、「十三番目の男」しか印象に残らない。ⅠとⅢのとてもナイーブなすばらしい詩が吹っ飛んでしまう。これはぼくだけの現象かもしれない。十三番目のような縄文時代から現代までの長い土地の歴史を論文調の散文詩で中心に据えるなら、そういう系統の詩で一冊を仕上げないと他の詩が可愛そうだ。他の詩がいいだけに余計そう思った。」
この詩集は平成22年に第21回富田砕花賞を、永井ますみさんの『愛のかたち』とともに受賞しました。上の写真は受賞式後の写真です。合評会のとき閤田さんが持参されたDVDをテレビに映してみんなで鑑賞しましたが、そのテレビの画面をカメラに写したました。古い古いテレビでしたので目が粗く顔は分かる人にしか分かりません。ちなみに永井さんは神戸市在住ですが米子の出身です。閤田さん、永井さん受賞おめでとうございます。
閤田さんは昭和9年生まれ、日本現代詩人会、中四国詩人会、島根県詩人連合(理事)、裏日本ポエムの会に所属。詩集は2500円、砂子屋書房か著者へどうぞ。〒697ー0004 浜田市久代町1655