「詩作品紹介」カテゴリーアーカイブ

詩 樹齢45年アソカの樹

 

樹齢四十五年 アソカの樹 shouchan
「お元気ですか」
風のように自由自在になってしまわれたあなたへ
こんな言葉をかけるのはちょっと変ですね
でも 会議を終えてさっき別れてきたかのように
いつものあの慈眼と笑顔が今日もぼくの目の前にあるのです

秀陽先生 ー ああ それから それから 昭英先生 …
とうとうこの日がきました
この国は一体どうなっていくのでしょう

街でアソカのバスを見るたびに思い出します
「アソカという言葉は古代インドのサンスクリット語で
お釈迦様はルンビニー園のこの樹の下で誕生されました
中国ではその意味をとって漢字で無憂樹(むゆうじゆ)と書きます」
そう教えてくださったのは先生でしたね

まだ一度も見たこともないアソカの樹
あの時からこの樹はぼくの中で大きくなっていったのです

みどりの葉を空に広げ 香り高い美しい花をつけたアソカの樹ー
その下でぼくの二人の子も「光りの子」として育てられ
大勢の友達と「みんな優等生」となって巣立っていったのです
憂(うれ)いの無い空のように澄んだ目で
この樹は千人を越える「アソカの子」を見てきたのです

樹齢四五年に育ったアソカの樹
壮年期に入った大木アソカの樹
その下で明るい声が絶えなかった幼稚園

過去の思い出となり 未来の夢は語れなくなっても
先生
アソカの樹は大きくなっていきますよ
ぼくの心の中で
千を越える多くの人たちの心の中で

 

(文集アソカへ頼まれて書いたものです。秀陽先生は創立当時の園長先生でした。昭英先生は次の園長先生でしたが、若くして他界されました。触発されて「ミネコ先生の傘」という詩を書いていますが、いつかいつかと思っている内にいつか…。みんな素敵な人たちでした。お世話になったマイサンが大学を出て中国で十数年働きちょうど日本へ帰った時に閉園式が行われました。当時お世話になった先生方へ感謝の言葉を述べお礼の花束を渡しました。Shouchanは文集アソカには10数編詩を頼まれて書いています。素直に書いた詩ですから自分でよんでも心に響くものがあります。いつかまとめてお世話になった人たちに贈りたいものですね)

 

詩 7歳までは神のうちー石見銀山考ー

  

      7歳までは神のうち ー石見銀山考ー  Shouchan

ブレーキを踏んで車を止めると

子供たちは目の前を小走りに横断して歩道に立ち

声をそろえて頭を下げる

「ありがとうございました」

 

いつも見慣れている風景だが

大阪や東京から来た三人は

感動して小学生たちの姿を見送っている

「あんな子どもが日本にはまだいてるんやね」

 

ふと ある講師の言葉が頭をかすめた

「七歳までは神のうち」

石見銀山にはそんなことわざが残っているという

 

受け売りを得意になって紹介すると

ミキさん夫妻が言葉を重ねる

「子どもは神のように大切に育てられたんやね」

「さすが出雲石見は神の国やわ」

 

「逆じゃないのかな」

後に座っていたケンさんがつぶやいた

 

会話が途切れ 新緑の林が後ろへ流れていく

「飢饉のときその言葉は救いになったんだよ

……神の国へ返すのだからさ」

ケンさんが再び低い声でつぶやいた

 

フロントガラスに日本海が広がる

短いトンネルを通過する

 

「……生まれた子を間引くときにさ」

 

 

詩 暗いとこ通って広野原

暗いとこ通って広野原              shouchan
三菱の重役のお屋敷でね
わたしも 三つ指をつき
あそばせ言葉で話しとったんよ

ぼくにはまったく記憶がないが
母が東京で女中奉公をしたとき
二歳のぼくも連れて行ったという

いまはやまなか いまははま
いまはてっきょう わたるぞと

煙を上げて東海道線を走る汽車の中で
流れてくる風景に合わせて母は歌ったという

おもうまもなく とんねるの
やみをとおって ひろのはら

真っ暗闇の世界へ突入する度に歌い
光が満ちあふれる広い緑の世界へ出る度に
「ほら ひろのはらよ」と言って歌ったのだろう

そのうちぼくは
「やみじゃない くらいところだ」といって譲らず
負けた母は
「くらいとことおってひろのはら]                                  と変えて歌ったという

ベッドのそばに寝ころんで                                     遠い世界の童話を聞いているように
老いた母の言葉に耳を傾ける

何もかも溶けて遠くなっていく日
小石のように光る頑固さがなつかしい

詩 リラの花咲くころ

リラの花咲くころ 洲 浜 昌 三

高校生だったころ
ラジオで覚えた大好きな歌があった
「リラの花咲くころ」

リラ リラ リラ
なんというさわやかな響きなんだろう

ぼくの村にはどこにもなかったので
どんな花なのか見当がつかなかったが
花開いた美しい姿がふくらんでいった

リラはライラックともいう と知ったのは
何十年もたってからだった

ライラック ライラック ライラック
なんというきれいな響きなんだろう

何十年もたったある日
ふとしたことでその苗木が手に入った
関西以西では育たないと聞いたが
家の前に植えておいたら初夏に花が咲いた

あたりに漂う高貴な香り
品のある薄紫の豊かな花房
庭に浮かんだ華やかでつつましい白い雲

どこまでも沈んで行く悲しい日
青春の日のあこがれの少女のように
リラは軒下ですっくりと立っている