礼 節 洲 浜 昌 三
道ばたじゃ三回唾(つば)ぁ吐ぁて
ちょっとごめんなさい いうて シッコをせにゃいけんよ
川へ小便(しよんべん)をすりゃ目がつぶれるけぇな
迷信だと思いながら
何故か子どもの時から守ってきた
世界一豊かな国の高層ビルディングが
あっという間に地上に崩れ落ち
世界一貧しい国の大地が連日爆撃されはじめ
神と神が正義を高く掲げて真正面から衝突し
泥沼の戦いが始まったさわやかな日本の九月
自然に優しく安上がりで安全と一億二千万を
越える人がひしめく小さな島に創りあげた
原 発神話が吹き飛んださわやかな若葉の春三月
正義のために
人を神に仕立てて戦った国の子孫であり
豊かさのために 科学を神のように信じてきた国の住人である
ぼくはますます無神論者になる
ー 目に見えぬ神は何処(いづこ)と人問(と)わば
神は水なり火なり土なり ー
中国山脈の紅葉に囲まれた盆地
ふるさとの晩秋の森の社(やしろ)で
目にした短歌一首
縄文人と弥生人の混血児であるぼくには
これこそ懐(なつ)かしい
母の言葉は
太古の昔から 命を生み
命を育んできた
大地への礼節だったのだ
2012年10月に大阪の竹林館から出版されました。北海道から沖縄まで153名の詩人が詩を寄せています。編集者の一人、永井ますみさんは、直接本人の朗読する映像を撮影するために、今回も全国へ足を伸ばしておられます。そのうちDVDが完成することでしょう。
上の詩は冒頭だけ、島根県邑智郡邑南町田所で使われている生活語で書いています。方言は文字では10パーセントも方言の特徴を出せません。声でないと味がでません。そこが難しいところです。