大森五百羅漢 -石見銀山考- 洲浜昌三
石のそり橋を渡ると
羅漢さまの静かな岩室がある
父や母や夫や妻や愛しい我が子が
安らかに眠りますように
はるか江戸時代に人々が込めた
深い祈りの石仏 (いしぼとけ)
羅漢とはー
いっさいの煩悩を滅し、自力で悟りを開いた人ー
と辞書にある それにしては
「てめえらぁ それでええんかや!」と目をむいて怒鳴る羅漢
「うちのにょうぼうのやつがのぅ」口を曲げて愚痴をこぼす羅漢
「助けちゃんさい 頼むけぇ」天に号泣する羅漢
「わしゃ はあ知らんで」膝を深く抱える羅漢
「ありゃ ぼけてきたかいのぅ」ふと 頭に手をやる羅漢
静かに瞑想する数多の尊者の中に
悟りとは遠い数体の羅漢
石見の国 福光の石工は
うっかり本音を刻んだのかもしれない
(島根県詩人連合発行「しまねの風物詩」より)