桜前線みちのく北上
人々の嘆きみちみつるみちのくを
心してゆけ桜前線 ※
沖縄から九州へ渡りぼくらの街を通って
北上して行った桜前線は
心してみちのくの街や村を通ってくれただろうか
長い冬が終わり木の芽がふくらみはじめる早春
いつものように派手な姿で陽気に
卒業式や入学式を祝って
はしゃいで通りはしなかっただろうか
街や村が一瞬にして消え
人の姿もなく
広大な廃墟に
瓦礫だけが山裾までつづいている
荒涼とした風景は
原爆が投下され焼け野原となった
広島と重なる
何万という人たちの最後の言葉や叫びを
一つ一つしっかりと受け止めただろうか
つらい中でも慎ましい笑顔を忘れず
心の底に涙を貯めていく人たち
痛恨の涙をはらはらと流し
その清楚な姿で陸奥の人たちを励ましながら
桜前線は北へ向かっただろうか
※ 短歌は長谷川櫂『震災歌集』より