2011年11月13、14日、51回広島県高校演劇大会が東区民センターで開かれました。2日間で13校が多彩な劇を上演しました。審査の結果、金賞は広島市立舟入高校(県知事賞)、広島市立沼田高校(県教委賞)、県立福山誠之館高校(中国放送賞)が選ばれました。今年は尾道市で11月26、27日に中国大会が開催されます。
(閉会式で広島県高校演劇協議会会長、塚本修一舟入高等学校長から賞状授与)
3校の劇を舞台風景写真で紹介し簡単に感想を記してみます。残りの10校はそのうちゆっくりしてから紹介します。
市立舟入高校『麦っ子ゲン』中沢啓治作 須崎幸彦脚色
装置がとても良く工夫されていていろいろな場面に使われました。ゲンが原爆ドームのてっぺんへ登って、「おーい、スズメの卵をとったぞ!」という場面では装置が原爆ドームの頂上にもなり劇を拡げ豊かにしました。その場面になると装置が劇の中で生きてきました。
中沢啓治が漫画を書く場所もよく考えられていて、平台で少し高くして劇全体を見通せる位置に設定し、複雑で濃密なこの劇を貫く視点の役割も果たしていたと思います。劇作りのセンスを感じました。
登場人物は30人、2役3役もありましたがうまくこなしていました。場面もたくさんありますが、それがバラバラにならずしっかりとまとまり統一感があったのは美事でした。(昨年の劇も大変迫力がありましたが統一感に欠けたうらみがありました)
濃密な長いセリフもたくさんあり言葉だけが先行する劇になりがちですが、劇中の動きと言葉が分離せず同時に進行するように創られていました。ややもすると言葉だけの説明が多くなり観客は疲れてくるものですが、そういうことがなく最後まで舞台に観客を引きつける力を持っていました。啓治役、父役など男性がとてもいい味を出していました。今までの舟入とはちょっとカラーが異なる地についた迫力のある劇でした。
市立沼田高校『青い月』黒瀬貴之作
歌ではじまる楽しいオープニング。軽い身のこなしや自然な笑顔で観客をいっきに舞台へ引きつけました。今までにないメルヘン調の劇でクロセ先生の新しい挑戦を感じました。戦争で広島から疎開してきた2人の少女の話ですが、1人は病気がちで広島へ帰ったために原爆に遭います。悲惨な現実です。それをメルヘンとして受け継いでいくというテーマが最後のシーンで浮かび上がってきました。装置は大小様々な箱だけの抽象舞台でしたが、メルヘン調の劇の時には抵抗はありませんでしたが、原爆など戦争の悲惨な現実を演じる場面ではちょっと違和感がありました。疎開した田舎の装置を作るのは大変でしょうが、一工夫ほしいところでした。舞台が抽象装置で小道具など具体物がないので、ことばが先行してしまう印象が残りました。難しいところです。
福山誠之館高校『昭和みつぱん伝~浅草・橋場二丁目物語~』タカハシ ナオコ作
登場人物は女性2人だけ。2人だけで観客を最後まで引きつけるのはとても難しいけど脚本が良くできています。前半では途中ではちょっと退屈しましたが、後半になってテーマが立ち上がってきて2人の女性の考えが衝突するあたりから引き締まってきました。
場面は戦前の東京の上流家庭。巴さんはこの家のお嬢さん。勝子さんは使用人。2人は仲がいいのですが、考えは真反対。巴は兄が歌舞伎役者になろうとしているのが許せない。軍人の家だから軍人らしく生きてほしい。戦争に招集されたことを誇りに思っている。勝子はその巴の兄に歌舞伎や落語へ連れていってもらう。戦争が激しくなり、巴の兄は戦死。見合いの相手も学徒動員で戦地へ。東京大空襲。一家は広島へ疎開。原爆投下。歴史に翻弄される人たちの悲劇がつづく。
巴と勝子は友達だけど身分は天と地。そういう関係がもっと出ていたら前半の様々な遊びの場面にも奥行きがでたでしょう。現代の女性の友達という感じでは浅い劇になるし、この劇の面白さがでてこない。装置は大きな部屋を丁寧に作っていました。大変だったろうと思います。
以上3校だけを紹介しましたが、代表にはなれなかったけど素晴らしい劇がありました。福山市立福山中・高等学校の『Piggys Bank』(新宮正一作)や美鈴が丘高校の『青空』(片山稔彦作)尾道学園の『スイッチ』など見応えがありました。そのうち紹介します。
帰りに高速道路を間違えて入り仕方がないので尾道まで行って三次から帰ってきました。4時間以上かかりました。たまには違った風景を見ながら運転しようと考えて、三次から作木を通って江川沿いに狭い道を通りました。いろいろな橋があってすてきでした。何枚か写した橋の一つをどうぞ。紅葉が進むとさらに美事な風景が見られることでしょう。