ここ数年全国的にもトップレベルの劇を上演して大活躍中の三刀屋高校演劇部が松江で2本の劇を公演します。
一校の演劇部単独で県民会館を使用して二本の劇を上演。普通では不可能ですがそれを可能にしたのは三刀屋の力でしょう。周囲が放っておかない。
主催は財団法人島根県文化振興財団(島根県民会館)・島根県・株式会社キラキラ雲南。公的な組織がバックアップしての公演です。こんなに恵まれた公演はひと昔前には想像もできません。
「暮れないマーチ」(亀尾佳宏作・演出)は2007年に大田市民会館の県大会で情報科学高校の劇と共に最優秀賞を受けて中国大会へ出場、桐生市で行われた54回全国大会で優秀賞(文化庁長官賞・全国演劇協議会会長賞)を受賞しました。
最優秀賞は青森中央高校の「河童」で顧問の畑澤聖悟さんの脚本です。2005年に八戸で全国大会があったとき中国地区代表の審査委員としてぼくも参加しましたが、その時も「修学旅行」で最優秀賞を受賞しています。畑澤さん亀尾さんは高校演劇のトップを走る脚本家・演出家です。
2008(平成20年)群馬大会の優秀賞は三刀屋、新島学園高校、岡谷南高校の3校です。上位4校は2009年夏に国立劇場で上演しました。
参考までに桐生全国大会での審査委員の講評を4人だけ「演劇創造」から引用してみます。
「『暮れないマーチ』の幕開きほど美しいものはなかった。その後の展開を予感させる詩情あふれるものであった。二人の兄弟が語る生と死の物語であった。お盆にしか会えない死んだ弟。お盆の日が暮れなければ別れはやってこない。けれど日は必ず暮れる。昆虫採集の遊びも含めて、命を見つめる優しさに満ちた作品であった。死と向き合ってこそ、人は生きることを実感し、苦悩するのだと、見終わった後に感じた」 (北海道 影山吉則)
「この作品が持つ『魂にまつわる物語』のテーマは今の世界にとってとても大切なテーマだ。彼岸と此岸が溶解するお盆の黄昏時、死んだ弟サキオが兄ユキオのもとに帰ってくる。そして独白して去ってゆく。お能の夢幻的な、葛藤のないアジアの劇だ。だからこそ夢幻の黄昏時に対して実は何も起きていない『現実』を鮮明に対峙させないと夢幻の時間が生きてこない。センチメンタルに夢幻の時間を演出しすぎて『現実』に残る微かでリアルな『夢幻の痕跡』を消してしまった。少年たちの演技は素直で好感が持てた」
(新体詩 TAICHI KIKAKU代表 オーハシ ヨースケ)
「夏の黄昏時に生者と死者が出会う。ファンタジックで詩的な世界が広がった。空間の使い方がよく計算され、せりふが心地よいリズムを生む。時に清潔なエロチシズムも立ち上がる。舞台を見ていて、ふと、風景と人物が溶け合った植田正治氏の写真を思い出した」(演劇記者山口宏子)
劇作家・演出家の河村毅:
「出だしの絵の作り方は見事だった。そいう意味で、つかみはオーケーなのだが、中身に入っていくとだれた。戯曲のせいもあるし、演出に統一性をもたせるという意志が欠けているせいとも思われる。ラスト近くの演出も絵としてはいい。最初と最後がよくて挟まった中身の世界が魅力に乏しい。演出はけっこう達者だった」
どの審査委員の批評も参考になりますが、川村さんの批評はこの劇の(亀尾脚本の)特徴をズバリと突いているように思います。詩性と劇性をどう処理するかです。
10月28日に「暮れないマーチ」が大田市民会館で上演されたとき、特別招待で、劇研「空」はサウンド・コラージュと「石見銀山 仙の山」を上演しました。その間に発表12校の劇の審査が行われました。
審査はいつも大変です。時間がかかります。そのために投票制を取り入れています。全国も中国大会も審査委員がどの劇に何票投じたかを会報で公表しています。とてもいいことです。
このとき一回目の投票では情報科学が4票で決定。三刀屋と東が3票の同数。議論を重ねて再投票。三刀屋は負けましたがそこでまた大議論。どの劇にもいいところもあればよくないところもあります。100点ということはありえません。審査には当然いろいろな観点が入ってきます。ぼくは「いいものはいい」で一貫していました。高校演劇の審査の場合あくまで議論して決定するという精神があるのはいいことです。議論なしで投票・決定ーでは発展がありません。
三刀屋は中国大会で最優秀賞を受け、3年連続全国大会出場という偉業を果たしました。演劇の名門・舟入高校でも連続3回はないと思います。
「みなそこへいけ」は2008年に中国地区大会で実質2位になった劇で、亀尾さんが歴史物に挑戦した初めての脚本です。
台本をメールで送ってもらって読みましたが、とても面白かった。少年が源平合戦の時代へタイムスリップするという設定ですが、そのために劇に隙間や遊び空間がいっぱ生まれ、作者の創意工夫や遊びが羽ばたいています。
実験中ブログです。
当初は大田高校の演劇を応援することも大きな目標でしたが、対象が消滅しました。高校演劇を応援するのも目標ですが、だんだん遠くなっていきます。久しぶりに高校演劇のことを書きました。空振り!(だれだ?)
三刀屋の劇を観たらまた何か書きましょう。みなさん誘い合って観にいきましょう。きっと感動と豊かさを心に抱いて帰っている自分がいるはずです。
高校演劇は「内輪向け劇」や「自己満足劇」や「未消化劇」「抽象劇」が多く一般の人が見ると「面白くない」とよく言われます。
しかし三刀屋の劇は違います。部員たちが劇を楽しんで伸び伸びと演じています。舞台で生きています。同時に観客の視点で劇を作っています。観劇して楽しいと同時に、心を開き高め豊かにしてくれるものがあります。これこそ文学芸術の力です。それがあるのです。
三刀屋高校演劇部のみなさーん。楽しみにしています。
3月末には東京の自由劇場で上演ですね。島根の高校演劇の面白さを東京の人々に見せてあげてください。
はーい!
あれ!?