全国から122人の詩人の詩を集めた詩選集が竹林館から発行されました。地方語や生活語など生きた言葉を使って書かれた詩で独自性や個性があり楽しめる詩集です。
次は洲浜の作品です。紹介します。面白いいい詩がたくさん載っていますので買って読んでください。2千円です。
おまえのかあさんでーべーそ 洲浜昌三
意地を通して 三対一になって孤立し
日暮れの田舎道をうつむき加減に帰りながら
背中で聞く囃し言葉の合唱は心臓をえぐった
「おまえのかあさん でーべーそ」
なぜぼくの臍を攻撃せずに母の臍を罵るのか
出臍であることはそんなに醜悪なことなのか
聖地を汚辱することは致命的だと知っているのか
直接爆撃ではなく周囲から攻める威嚇攻撃なのか
愛しい思いを三十一文字の和歌で伝えたように
けんかの悪口も韻を踏んだメロディ付きの定型詩
そんな民族の気質が
子供の中にも流れていたのだろうか
まあちゃん まんまる くそ ひって
かみ がないので て でふいて
もったいない から たべちゃった
最大の侮辱を全身に浴び
まあちゃんは涙をぬぐいながら走り去り
一本道の真ん中で毅然と振り向いて
「おまえらの かあさんでーべーそ」
大声で一矢報いて
わら草履を一目散に回転して走っていく
今日は多勢についた
ぼくや みっちゃんや いいちゃんでも
あしたは三人から
集中砲火を浴びるかも知れない
みっちゃん みちばた くそ ひって
かみ がないので て でふいて
みっともない から たべちゃった
山野を走って戦争ごっこ
木に登ってターザンごっこ
集落一週マラソン大会
田んぼの中の阪神巨人戦
相撲 パッチン 缶けり
釘立て 陣取り 追っかけっこ
かくれんぼ なば取り 木の実とり
水浴び つけ針 魚取り
雨の日は決まって神楽で武士と鬼
兄弟以上にいつも一緒にいたのに
みんな村を出てどこへ行ったのか
年賀状も書いたことがない
六十年以上過ぎた今日
はじめてうわさを聞いた
まあちゃんが死んだらしい
長いあいだ難病で苦しんでいたという