幻戯書房から日和さんの本が出版されました。「中原中也賞受賞の新鋭が描くもう一つの創作譚 書き下ろし小説」と
帯にあります。散文詩と小説の中間域で生まれた作品という印象です。日本の神話などが背景になった異色作です。
冒頭の「みとのまぐわい」は次のようにはじまります。
おのごろ島にて、いざなぎとまぐわう。
こおろ。
こおろ。
われらははじめて降り立った島のまわりをめぐりながら、処どころ潮水にさわったり、海藻を撫でたりしつつ、だんだんに塩の積もった頂の方をめざした。
作者はあとがきで次のように書いています。
「ある島の、いつと知れない出来事、そのありさまを、写し、記した。描いたのではなく、〈写した〉。書いたというより、〈記した〉。《叙事》である。」
おのごろ島とは伊弉諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)の二神が生んだ島で日本のことです。
この本の魅力は言葉では説明し難く感想も人によって違いそうです。
人間が余分でつまらぬ感情や考えを持つ以前の自然や動植物と同じ次元だったときのような素朴な風景がぼくには焼き付きました。同時に名詞や形容詞だけを置いたような単純素朴な会話がとても魅力的でした。もしかしたら古代日本人はあんな会話をしていたのではないかと思いました。
近藤奈津子さんともども大田高卒の日和さんのますますの活躍を祈っています。