11月11、12日(日)安佐南区民センターで46回広島県高校演劇総合大会が開かれ、各地区の代表13校がすばらしい劇を上演しました。金賞で松江の中国大会へ出場するのは美鈴が丘高校と舟入高校です。大会の様子を紹介します。
講師は東京演劇集団「風」の俳優西垣耕造さんと洲浜。審査員は各地区からノートルダム清心高校の久保先生、日彰館高校の橋本先生、三原高校の榎先生。広島は2日で13校発表します。1日目は8校。島根は2日で7校。島根は劇が終わる毎に幕間討論(実際は講師講評)がありますが、広島は生徒だけで幕間討論をし、講師は2日目の最後に講評をします。
広島は講師が2年交替で、1人はプロ、もう1人は高校演劇の顧問という体制でバランスを取っています。
今回の西垣さんは俳優で各地の講師やワークショップもしておられるので高校演劇のの現状を十分理解しておられ、役者の演技という観点から具体的な助言をされ、とても参考になりました。
次ぎに各校の劇を簡単に紹介しますが、写真は遠景舞台写真です。事務局長の沼田高校、須崎先生に、「人物写真ではなく舞台の遠景写真を撮らせてください」と了解を得て1枚ずつ撮りました。舞台は文章で説明するより、1枚の写真のほうがはるかに豊かにしかも多弁に語ってくれるからです。装置などは特に参考になります。
劇研空は高校演劇を応援することも目標にしていますので管理人修平さんの暗黙の了解を得て、勝手に母屋の座敷に座り込んで堂々と一杯やりながら書いているところです。
市立安佐北高の「逆光少女」(北野 茨 作)はよく上演される劇です。生徒5人が陪審員になって女生徒がナイフでともだちを刺した事件の真相を究明していきます。推理小説仕立ての会話劇です。会話だけですからうまく演じないと観客は退屈します。安佐北の皆さんは発声もよく退屈させずに見せてくれました。
脚本にはなかったことですが、ナイフで刺した大川さんを舞台に登場させたのはとてもいいアイデアでした。会話中心の劇はこのように脚本にない演出をして劇をふくらませないと単調になります。刺す場面なんかもシルエットで出すのかと期待しましたが、それはありませんでした。
写真で見ても分かりますが、窓の大きさがとても大きいので学校というイメージが湧きませんが、何か意図があったのかも知れません。
人は逆光の中で物を見ている(偏見でみている)ということを最後に訴える劇でしたが、ラストのシルエットがとても印象的でした。
緞帳が上がると舞台装置がまず目に焼き付きます。進路指導室の壁色彩や配置、壁の屈折、ドアの位置、本の配置や数など変化があり、手抜きがなく、とても自然に作られています。それも頷けます。顧問の国木先生は美術が専門なのです。うらやましい限りです。
この三次高校の劇は部員の伊藤未名さんの創作です。地域の民話を素材にして、3人の女生徒の進路の問題をとても面白く独創的な発想で書いています。発声も良く新鮮な舞台でした。何者か不明な先生に催眠を掛けられて、みんなから不可能だと言われている先生や警察官になる場面で、理想に描く先生や警察官をピシッと演じたら、劇が更に美事に立ち上がったに違いないと思います。
演出の力が更に生かされれば、もっといい劇になったに違いない。そういう点も含めて、伊藤さんの創作脚本賞を贈ることに一致して決まりました。いい発想力を持っている生徒さんです。今後もぜひ書いていって欲しいなぁ。劇でも小説でも。
美鈴が丘高校の劇は、清水達也作「火くいばあ」という民話から顧問の山内弘行先生(退職後、講師で勤務)が脚色されたものです。
山内先生は童話や民話、体験記などから脚本に立体化される力量があり、元は単純な話しなのに劇になると百科爛漫たる豊かさが舞台に生まれます。
昨年の尾道大会でも(そて以前にも)思ったことですが、30人近いキャストが舞台でとてもうまく動きます。部員の協力や力ももちろんありますが、顧問の土岸先生や山内先生の指導の力も大きいのでしょう。
全国的に演劇部が減少しているのが現状ですが、美鈴が丘高校はいつも30人以上です。きっと一人一人を生かした魅力的な部活動が行われているのだと思います。
今回の劇はラストが衝撃的でした。思わず身を正しました。付け足しだという反論もあるかも知れません。しかし僕はあの芸術の爆発には衝撃を受け感動しました。山内先生も賛否両論があるのは分かっているけど…と言っておられましたが、あれがあったから「今」への激しい問いかけが劇に強烈な命を吹き込んだのだと思います。(どんなラストだったかはここでは書きません。中国大会で観てください)
水ばあ、風ばあ、の存在は希薄だったように思います。みんな「火喰いばあ」の一族にしたら、ストリーがすっきりし、ラストが更に強烈になったでしょう。
県立福山商業は「高場光春 作 「見えっぱり家族」。これでもか、これでもかと笑いを追って作り上げ、ラストでちょっとホロリとさせる劇です。皆さん達者な演技でとても楽しく観ました。笑いの劇はあくまでそれぞれの役に徹しないとなれ合いの演技になってしまい劇が流れて行きます。そういう傾向が少しあったと思います。歯切れもよくスピード感のある楽しい劇でした。
県立観音高校の劇、「ホットフレンズ」は部員の松田沙希子さんの創作です。脚本を読んだ時には、不登校生徒と亜流金八先生のハッピイエンド物語に近い、と思ったのですが、実際の舞台は新鮮で感動的でした。転校してきた不登校生が板東先生や友達の支えで立ち直っていく話しで、それだけ書けばありふれた話しです。
板東先生は、不登校で転校してきた桜子を励ますのですが、ネチネチしたところがなく、さらっとしていてしかも温かい味のある先生を良く出していてこの劇が成功した一つの要因だったと思います。桜子はメールで不当に攻撃されるのですが、顔の見えない現代社会の恐ろしさをよく出していました。
作者が生徒さんだけあって実際のいじめの恐ろしさや立ち直りのための方法を実感として理解して書いた強みがありました。場面転も多いのですが、明転をつかってスムーズに展開していたのも美事でした。
審査員の投票では第3位で、2位の美鈴が丘とは僅差でしたが、昨年のように3校代表に選ぶことができればいいのに、と何度も思ったことでした。
「俺のダチは…」は部員の猪原祐二君と大谷真之介君の創作で、実に男っぽい劇で、印象に残ります。高校時代は悪で先生に迷惑ばっかり掛けた卒業生が、死んだ先生の墓の前で一升瓶で酒を飲みながら回想するという出だしです。同室のルームメイトがオカマみたいな優しさと、別な時には凶暴性をもった奇行を繰りかえすのですが、解離性同一性障害だと分かるなど現代的なテーマを持った意欲作でした。喧嘩の場面では迫力がありハラハラさせられます。劇は肉体を通した表現であることを示してくれました。
以前、松江工業高校が男子だけで男っぽい劇を上演して魅力がありましたが(その一つは中国大会では審査委員が一致して誉めたのに時間オーバーでランクを落とされ全国大会へ行けなかった。あの時はぼくも審査委員の一人で悔しい思いをした)呉工業の劇にも似たような荒っぽくてダイナミックな魅力がありました。だいたいの高校演劇がどちらかと言えば静的な劇が多いので、呉工業の劇は特徴が際だっていました。
三原東高校は上田美和 作 「トシドンの放課後」。残念ですが写真がありません。関東大会で西垣さんは講師としてこの劇を観て代表にも推したそうです。ぼくは青森の全国大会で観ました。人数は3人ですしいい脚本なので取り組みやすく見え、あちこちで上演されています。
保健室登校生の部屋へ非行を犯した女生徒を入れて謹慎指導するという組立です。最初から二人が長机に面と向かって座るというのは考えさせられます。保健室も広過ぎました。
全国大会では不登校生は男性でしたので二人の関係に深い陰影が出て味がありましたが、女性同士でしたかトシドンの面を被って大声で説教する時の効果が出ませんでした。思春期の男女という設定は重要ではないかと思いました。
舟入高校「CRANES」は顧問の黒瀬先生の創作。伊藤隆弘先生の跡を受けて母校の顧問になり、「SHAKE HANDS!」で1999年に大田市大会に出場。その後2001年を除いて今回で6回中国大会出場です。
今回の劇は、生徒会の執行部が鶴を折ることを提案し、生徒会室で最後まで鶴を折るのですが、様々なことがその中で起こり様々な思いが絡まって劇が展開されます。舞台装置も生きていますし、発声はいつもの通りしっかりしていて自然に声が聞こえてきます。
発声や滑舌が悪い劇を観るときには、言葉が聞き取りにくくて、もしかしたらぼくの耳が悪いのではないかと思うことがしばしばあります。しかし発声がしっかりしている学校の劇の時には小さい声でも言葉は自然に入ってきます。発声やしゃべり方の基本は十分練習してほしいものです。
舟入の劇は松江の中国大会へ出場しますので詳しいことは書きません。ぜひ観てください。
ドリット・オルガット作、樋口範子訳の小説を市立沼田高校の顧問で今大会の事務局長でもあった須崎幸彦先生が脚色された劇です。イスラエルとアラブの民族問題をあつかった意欲作です。
イスラエル人、ミリアムはアラブ人に息子を殺されて半狂乱となります。医学を勉強するためにアラブから来た学生ハミッドをミリアムは息子だと思いこんで下宿させ母親のように面倒をみるのです。そこからどんな困難な問題が起こってくるか、考えただけでも恐ろしくなります。
装置が実にうまく作られていて感心しました。場面がたくさんあるのですが、装置が工夫して作られているので、それらの場面を有機的にうまく使うことができます。
役者が実に達者でした。滑舌が不十分な人が約1名いましたが、みんな発声がいい。母親を演じた岡恭子さんは3年生ということもありますが、実によく動き、しっかりした言葉を喋りプロの役者をみているようでした。動作が吹っ切れているのです。
代表にはなりませんでしたが、意欲作でとてもいい舞台でした。今でも舞台装置の前で、登場人物たちが表情をもって頭の中で動きます。特にミリアムが・・・。
解説で物語りが進行する点にやや難点がありましたが、ある意味では高校生のレベルを越えた脚本であり舞台でした。
市立沼田高校もいつも部員が20人前後かそれ以上います。特色のある劇で広島の高校演劇をしっかり支えている伝統校の一つです。
本当は中国大会でこのような劇も観てほしいものです。
尾道高校はコダルマ ゴロウ作 「急須で淹れた紅茶」で銀賞。インターネットからダウンロードした脚本だと思われます。役者たちも達者でのびのびと劇を楽しみ、観客もとても面白く笑いながら観ます。そして surprising end!!
見ていると思っている人たちも見られていて、その人たちも見られていて、監視させている部長さえ観客から見られている!現代社会の恐怖です。見られていることを自覚し計算して動いている。監視カメラを写している人が、更に別人にカメラで写されていて、その人もまた誰かに・・・恐いはなしです。その集団を舞台の中、上、下、の3つの場所で演じ、それがビデオに写されて舞台で再生されるというとても手の込んだ面白い発想で劇が作られています。
尾道は部員も多く元気な男性もいていつもしっかりした劇を作り楽しませてくれます。こういう劇も中国大会へ出てほしい。観客はきっと楽しみ満足します。
市立福山中・高等学校は、顧問の新宮正一先生が創作された「イコン」。満州の大連が舞台で、母は満人の匪賊に撃たれて死亡。姉は足に大けがを受けて家に籠もった状態。妹はけなげに姉の面倒をみるが、ひがんだ姉は素直になれず反発ばかりする。義母は妹を可愛がり自分に愛情を注いでくれなかったと思いこんでいる。
ラストでは数年たった部屋へ一人の老婦人が訪ねてくる。それは姉だった。妹は死んだという。
部員は2人しかいないという。二人がしっかりと演じて見せてくれました。爆撃音やチャペルの鐘の音など音響もうまく取り入れて、外の風景が広がるように工夫していました。
昨年は「落日の譜」で没落する昭和恐慌の地主を作者は台本にされました。重厚な舞台でした。
日本の歴史の典型的な一場面を背景に、日本人の生き方を描こうとしておられます。貴重な連作です。
今回の「イコン」はもう少し激しく動く時代を取り入れて書かれていたら、普遍的な作品になったのではないかと思いました。姉と妹の二人の感情の世界に劇が小さく納まってしまった気がします。二人でもこれだけの劇ができる、という見本を示してくれた劇でした。
県立上下高校「あした天気に」は部員、岡田万美さんの創作。金子みすゞの詩の朗読から始まり、二人の女生徒が夢をかたっていると大きなツチ(槌)を持ったツチが現れて夢を壊そうとする。夢を持つ二人の少女と壊そうとするツチとの葛藤で劇が進むのかと思ったが、子供時代の夢に返ったりしてストリーの骨格が分かりにくくなったようです。部員が数人しかいないようで、色々な点で苦労した跡がわかります。
最後の13校目は鈴峯高校の「ホームヘルパー」(中沢武志作)。鈴峯は何度も全国大会へ出場している伝統校です。中国大会へ出場しない時でも、しっかりした劇を上演していますし、部員も多く広島の高校演劇を支える太い柱です。劇はしっかりしていて演技もうまいのですが、このところ何故か印象が弱い。それは脚本によるのではないかと思います。
新米のヘルパーが認知症の老婆(シゲ)の世話しますがうまくいきません。家の母親は勤めもあり苦労の連続。ひもで首を絞めようとしかける場面もあります。大変な修羅場です。シゲは家から老人ホームへ移されますが、逃げて家へ帰って来ます。死ぬ前に娘の芳子とヘルパーの明子へ「お前はいい子だ。いつも一生懸命がんばった」と言い残します。ハッピーエンドですが何故か軽い。現実はそんなもんじゃない、という内面の声が聞こえてきます。
認知症の問題は大変な問題ですが、もう少し突っ込みが欲しい。また突っ込む新しい角度もほしい。老人問題を全般的になぞったという印象が残りました。それは脚本が書かれた時点より問題が更に進んでいるからかも知れません。そうするとそれだけの潤色が必要になってきます。
作者の中沢先生には昨年青森県八戸大会のとき夜の街で会いました。それ以前の平成14年に、ぼくが書いた脚本「ぼくたちの戦争」への上演許可依頼があり、しばらくしたら新潟県立高田北城高校が県大会で最優秀に選ばれ、関東大会へ出場することになったという手紙もきました。先生はぼくなんかよりはるかに力量がある方です。
昨年、石見銀山街道を運転して尾道へ初めて行きました。途中で銀山の歴史にまつわる地名にたくさん出会いました。広島県大会の閉会式が終わったら、若い新聞記者が「洲浜先生ですね。久しぶりです。田儀です。」と言って話しかけてきました。「ああ、慶樹君!」と反射的に口から名前が出てきました。
英語の授業でいつも「タギ ケイジュ」と言って指名していたからです。びっくりしました。昔の懐かしい不思議な世界へ迷い込んだような気がしました。中国新聞の記者になって尾道支局にいたのです。
翌朝ホテルで新聞を見ていたら、上に掲載した大会の記事が載っていました。代表になった美鈴が丘高校の舞台写真をうまく撮っていますし大会内容も適切に紹介していました。大田高校卒業生が、こんなところでもがんばっているんだなぁ、と思うと嬉しくなりました。
ということで一年遅れの新聞を紹介しました。ケイジュ君は修平さんと同級生じゃないかな、ないよな、いやないかもしれないけど近いんじゃないかな、たぶんそうだよ。
以上、広島県の大会の様子でした。今まで4回大会を観させていただきました。ぼくの演劇の出発は広島の演劇でした。現役時代、教わることがたくさんありました。感謝しています。みなさんありがとうございました。
平成11年11月20日