18年度 高校演劇 石見地区大会・美都町で開催

18年矢上高校
 石見地区大会は9月22(金)23(土)3校が参加して美都町で行われ、津和野高校が花本彩音さんの創作劇「UPSTAIRS」で代表に選ばれ県大会に出場することになりました


 矢上高校は昨年は出場しませんでした。演劇の伝統のある学校だったのに …とうとう…矢上もか…と残念に思っていましたので、今年の参加を知ってとても嬉しく思いました。
 「交番へ行こう」はとても面白い作品です。ぼくは高校演劇劇作研究会の会員でそこで発行している 季刊「高校演劇」を読んでいます。面白くて上演可能な脚本には印をつけておくのですが、この脚本には二重○をつけています。女子高生の万引きが引き起こすやり取りに緊迫感があり、その深刻な会話の中にも温かい人情から生まれるユーモアや笑いがふんだんにあり、活字で読んでもとてもおもしろ脚本です。
 良い脚本を見つけたなぁ、と感心し上演を楽しみにしていました。
 上の写真が矢上の劇です。交番が舞台ですが、装置はシンプルですがとてもよくできています。指名手配のポスターでも貼ってあったら文句なしです。狭い舞台でしたが、下手に自転車を置き、上手にトイレ(これらが重要な役を演じる)をうまく作っていました。
 万引きの高校生を捕まえて交番へ連れてくる店長は女生徒の山田さん、手塚巡査も女性の瑞光さん。部員がいないので仕方がなかったようですが、無難にこなしていました。山下巡査の清水君は声も魅力的で本気で叱る時などはピタリと巡査らしさが決まっていました。配管工でちょっと出てきた湯浅君は臨時部員だったそうですが、はまり役でした。
 頑張ってまずまずの劇に仕上げていましたが、笑いがあまり生きて出てきませんでした。幕間討論でわかったのですが、一週間しか練習ができなかったということでした。部員は4人でみな初舞台。参加することを第一に考えたということです。
 それぞれの登場人物をしっかり作り、厳しい時には大声を張り上げたり、メリハリをつければもっともっと面白くなったでしょう。そのためには時間が必要でした。でも参加してくれてお礼をいいます。

 ぼくの母校はもう地球上にありませんが、矢上高校の分校、田所高校です。定時制の農業科です。田所には生物の藤田典幸先生がおられて、昭和20年代当初の創立時から演劇を指導されました。矢上高、川本高でも演劇部を育てられたとても熱心な先生です。島根の高校演劇の草分けの一人です。今の井原でご健在で地域の文化活動に貢献しておられます。矢上にはその伝統があるのです。
18年 浜田高校
 石見の伝統校、浜田は部員が一人になったとか。今回勇気を出して一人で挑戦してくれた小松原さんは美術、文芸の部員でもあるそうです。
 舞台に椅子を2脚置いて、交互に座る場所を変えて朗読してくれました。作品は芥川龍之介の「雛」。芥川の作品だけに文章が光っています。明治のころのことを書いたものですが、会話もあり、朗読としては良い本を選んだと言えます。明治の女性らしい和服もピタリでした。
 朗読と演劇はどこが違うのか。朗読は今後増えてくる可能性があります。朗読でも参加の道を開いておくことは今後の部活動の発展のためにも必要なことです。同時に演劇とは何か、という原点をこの際考えてみるのも、演劇活動に役立つかも知れません。演劇でなければできないこととは何か?演劇だけができることとは?
17年浜田高校
 昨年の浜田高は部員の古和彩音さんの創作でした。自殺を扱った少し観念的な作品でしたが若い人の誠実さと純粋さが感じられました。キャストはヒカルになって登場した作者の古和さんと、モモで出演した演出の今田美月さん、ブルータス役の舞台監督、桃木美弥さん、あとは照明の堀江さん、音響の北田さんだけで、部員は少なくなっていました。
 発声の良さ、きびきびした動き、高校生らしい清潔感のある舞台は、正に浜田高校の劇でした。これが最後にならないことを祈っています。
 今年の小松原さんの一人舞台が来年につながり、新入生が入ってきますように…
18年津和野高校
 高校生の若い感性が光舞台でした。作者の花本彩音さんは昨年も創作脚本を書き出演もしています。直感や感性が豊かなひとだということが台本を読んで分かります。部員も3年生中心で、劇を余裕をもって楽しんでいる伸びやかさがあり、いい舞台でした。部員は少ないのに、手抜きせずに空き教室をうまく作っていました。
 広島の原爆記念日に一人芝居を演じて新聞でも報道された青木香奈絵さん、作者の花本さん、弥生役の山根明絵さん、さとこ役の渡辺沙也加さんたちはとても演劇が好きらしく、お互いに知恵を出し話し合いながら劇を作ってきたのでしょう。高校生らしい新鮮な発想があちこちで生きていました。
 同時にもう少し意図的に演出し脚本をふくらませたらしっかりした劇になると思いました。
 弥生は空き教室でいつもままごとをしているという着想がとても面白い。面白いだけではなく現代の高校生の象徴的なイメージをそこに投げかけています。おもちゃで遊ぶ場面は照明を少し変えて、もっともっと沈黙の時間を増やしたら劇がしっかりするのではないかと思いました。ママゴトを楽しくやっている弥生が大きな心の傷を負っているのが最後に分かる、ということを意識的につくっていくといいのではないでしょうか。
 
石見地区の代表校に選ばれました。津和野は昭和54年の「おふくろ」以来の県大会出場です。
17年津和野
上は17年の津和野「Prologue」花本彩音・作です。花本さんは脚本の書き方が分からなかった、といっていました。確かに小説を書くように自由にかていて、そういう魅力はありましたが、いいセンスを持っていると思いました。劇ものびのびとしていました。演劇が好きな友達同士なんだろうと思いました。楽しむことが第一です。

 昨年度の浜田商業も紹介しておきます。部員の松本佳奈さんが創作した「さくら」です。作者は隠岐の出身で、この劇も島から出ていく女生徒の不安や夢などを描いていて地に着いた着想と若者らしい感性が生きていました。
17年 浜田商業

18年の大会は美都町で行われました。「ふれあいホールみと」は250席くらいの演劇にはちょうどいいホールでした。観客は3校の部員と顧問ですから、10数人です。もったいない話しです。一日の最後に「Mag2」が「 the way」を上演しました。
Mag2 「the way」
 この劇は、井川きりさんの創作で、今年2月18日に出雲のビッグハートで「劇団子」によって上演され観に行き、ブログでも紹介しています。看護師は桑谷功子さんとあり、文化企画の桑谷さんの奥様であることがわかりました。照明は桑谷淳とパンフに書いてあります。
 ヘリコプターが墜落し、難病の手術のため運んでいた母が死亡。墜落して生き延びた3人が山をさまよいながら色々なことに出くわし過去を回想する劇です。場面はたくさんありそれを装置で作っていたら大変なことです。平台や箱などをとてもうまく使い、演技で表現していましたが、うまく表現していて感心しました。
 演出は岩崎理恵さん(浜田高校時代は長谷川理恵さん)で、演出が隅々まで行き届いた劇でした。この劇団は益田や浜田の劇が好きな人たちで結成されたようですが、みなさんそれぞれがベテランで発声も表現も文句がありません。照明も大変だったと思いますが、多様な場面を的確に浮かび上がらせていました。
 照明でも音響でも装置でも演技でもちょっとした所に参考になる表現の仕方がたくさんあり、参考になりました。
 劇団子と最も違うのは、この劇では4人のコロスを使っていることです。4人とも踊りはプロ級です。このコロスを登場させることによって劇がとてもスムーズに展開しました。演出の力です。
 劇団子の時も今回もですが、劇を観終わって何が心に残るか・・・という点では数々のシーンは浮かんでくるものの、まとまってどーんと心に残っているものが希薄です。これは何故でしょう。課題です。

 演出の岩崎さんは浜田で演劇や映画で頑張っています。いつか一緒にやりましょうと話しました。
 今回の事務局は津和野でした。校長先生が最初から最後まで観劇されました。多忙中に大変だったと思いますが、その熱意は十分伝わりました。だいたい最初の挨拶だけが最近では普通。それもない場合もあります。中国大会を出雲高校が担当したとき○○校長は2日間全て観劇、歓迎会にも出席されましたが、こういう人は滅多にいません。生徒たちの活動をしっかり見ることによって教育に生かされるものがたくさんあるはずです。
 今回出場した部員は3年生が中心で、進路の勉強のため県大会へ参加できないかも知れないと顧問は心配しておられました。「進路の目標突破のためにも絶対頑張りますので県大会へ行かせて下さい、と先生や親にもお願いしなさい。目標をもって努力すれば時間を何倍にも有効に使えます。若さにはその力があります」と最後の挨拶でも強調しておきました。
 岩成紀子先生が事務局として世話を焼いておられました。今は放送部の顧問だそうです。演劇のほうがはるかに面白い、と言っておられました。演劇がよく分かっているし、実績もある先生ですから、演劇から綱をつけておきたいものです。石見地区の演劇部が滅亡寸前状態ですから・・・何としても復活させなければいけません。
 石見地区の写真で津和野や浜田は、岩成先生からメールで送っていただいたものです。ありがとうございました。
 
 

投稿者:

suhama

1940年、島根県邑智郡邑南町下亀谷生まれ・現在、大田市久利町行恒397在住・早稲田大学教育学部英語英文科卒・邇摩高校、川本高校、大田高校で演劇部を担当、ほぼ毎年創作脚本を執筆。県大会20回、中国大会10回出場(創作脚本賞3度受賞)主な作品「廃校式まで」「それぞれの夏」「母のおくりもの」「星空の卒業式」「僕たちの戦争」「峠の食堂」「また夏がきて」「琴の鳴る浜」「石見銀山旅日記」「吉川経家最後の手紙」「父の宝もの」など。 著作:「洲浜昌三脚本集」(門土社)、「劇作百花」(2,3巻門土社) 詩集「キャンパスの木陰へ」「ひばりよ大地で休め」など。 「邇摩高校60年誌」「川本高校70年誌」「人物しまね文学館」など共著 所属・役職など: 「石見詩人」同人、「島根文藝」会員、大田市演劇サークル劇研「空」代表、島根県文芸協会理事、大田市体育・公園・文化事業団理事、 全国高校演劇協議会顧問、日本劇作家協会会員、季刊「高校演劇」同人、日本詩人クラブ会員、中四国詩人会理事、島根県詩人連合理事長、大田市文化協会理事

コメントを残す