18年度 高校演劇松江地区大会を観る

松江工業
 9月21、22日県民会館中ホールで松江地区大会が行われました。代表校は海星、松江東、松江商業、情報科学に決まり、10月27(土)28(日)県民会館で行われる県大会に出場します。各校の舞台写真などをを紹介します。


 松江工業は部員の創作で元気のいい舞台でした。言葉で次々と場面が展開していき脇道、小道、迷路道に入り分かりにくいのが難点。台本には太い骨格が必要です。場面によっては照明が生きていました。人物が左右の動きだけで劇が平板になっていましたが、後半になって階段を使ったので劇に立体感と奥行きがでました。滑舌や発声はもっと練習してほしいし、ほとんど言葉だけで進行する劇なので内容を伝える会話の練習をしないと声は聞こえても何を言っているのか分からないことがあります。 17年松江工業
 これは昨年の工業の舞台です。顧問の伊藤先生の創作でした。テーマが明快で劇のテンポがよくしかも人物が生き生きと動きそれが観客に伝わってきました。大賀、原田、中野、新宮さんなどのきびきびした演技と会話が印象に残っています。元気のいい男性もいて期待していました。伊藤さんへ言いました。「手も目も足も口も出さんだったね。」事情があったのかも知れません。いい素材があっても生かし方を知らなければ素材のままです。「ベテランの目は恐い」スポーツでも文芸でも音楽でも農業でも何でも言えることです。一言で生きてきます。
海星高校
 昨年につづき部員の小村彩佳さんの創作。普通なら劇にならない憲法9条や自衛隊の海外派兵などを真正面から見据えて書き、その誠実で若々しい直球勝負がとてもさわやかで好感がもてました。単なる説明や議論ではなく、クイズ形式にしたり、討論形式にしたり、最後には戦争を疑似体験させたり、作者の創意工夫に感心しました。
疑似体験にはもう少し説得力のある設定がほしい気がしましたが、嘘を演じて真実を出す演劇ならではの大切な場面でした。作者はそういうことを心得ているのだと思いました。劇を知っているのです。女性5人の発声もよく自然に言葉が届きました。
17年海星
 昨年の劇です。これも小村さんの創作ですが、人と人が並列的な関係で進み、絡んで発展して行かないのでドラマとしては弱いところがありましたが、一人一人の人物がていねいによく書かれていました。みんな発声もよく、がらくたを集めた舞台にも雰囲気がありました。16年度には「七人の部長」を一年生7人で演じ県大会へ進みました。海星高校の劇はここ数年とてもしっかりとしていて魅力的です。
 今年の劇に出た岩本さんは中学3年生とか!舞台をみれば高校3年生だと言われても誰も疑わないでしょう。ピロティで部員の皆さんと話したとき「中学3年です」と言われてびっくりしました。パンフには「3年」としか書いてなかったからです。
市立女子
 部員の永江さんの創作です。学校が夏休みに入る前に生徒全員へ成長探知機を渡します。勉強時間や奉仕時間、読書時間などを記録する器械です。この器械を着想したことでこの脚本は成功しました。成長探知そのものが現代の教育を象徴し同時に批判のシンボルになります。
 すばらしい着想は詩でも小説でも脚本でも最も大切なことですが、簡単ではありません。日頃の読書や思考や意識など積み上げがないと生まれて来るものではありません。でも訓練や勉強で生まれるものでもありません。直感や感性や才能なども必要です。劇もうまくできていました。暗転の音楽もピタリでしたし、サイレントモーションなどを取り入れたのも良い着想で成功していたと思います。青山さんが演じるサナエが成長探知機を投げ捨てるクライマックスには感心しました。テーマが進行し、正と反が真正面からぶつかるクライマックスが劇創りとしても劇の流れからしても人物の心情からも観客の気持ちからも、激しくピタリ噛み合ったいたからです。作者が演出したので大事な場面をおろそかにしなかったのでしょう。
 学校や家、庭、畑など場面が多いのにほとんど道具や装置なしで展開したことや人物造形に不十分な点がありましたが、そういう点を修正し工夫して更に意図的な演出をしてつくればもっと面白い劇になる台本だと思いました。
松江農林
 15年にも農林は同じ台本でいい劇を上演しました。今回の舞台も小道具や大道具が舞台を引き立てていました。写真がないのが残念です。
 この劇は少年と少女が他愛ない遊びをしながら、子供の心理などがふと浮かび上がってきてぞっとしたり懐かしく思ったりするのですが、田中さんも中村さんもうまく演じていました。何回かこの劇を見ましたが、女子高校生が演じると一定のレベルまでは行きます。それ以上となると基礎訓練(特に肉体表現)を積んでいないと届きません。有名でよく上演される劇を取り上げる時には新たな視点で演出するか十分練習を積む必要があります。どうしても過去の劇tろ比較して見てしまうからです。
17年松江農林
 この写真は昨年度の農林の舞台です。二人だけの劇でしたがぼくは感動しました。
福田さん巴さんの話し方に無理がなくとても自然で二人の呼吸もとてもよくあっていました。高校生に見えませんでした。ぼくのメモには「うまい!」と書いています。
演出する人がきちんと指導し、相当練習したにちがいないと思いました。一年たってもまだ舞台が目に浮かびます。いい劇でした。
松江商業
 部屋の中での会話劇です。無神経に演じたら観客は退屈してしまう平板な劇になるでしょう。脚本も一見そう見えます。しかし、さすがはベテラン脚本家(いまは長崎の学校だとか。全国大会の鳥取では引っ越しを描いた劇がトップに選ばれています)です。日常会話の中に目立たないようにラストへつながる布石を数々置いています。その布石はラストで立ち上がり感動を与えるように計算して書かれています。
 3人とも会話がうまく大切な台詞を流さないように喋っていました。海野さんは1年でしたが、異質なキャラクターを演じて劇を引き締めました。感心したのは退屈しそうな会話劇をうまく立ち上げて劇にして見せてくれたことです。演出の力を感じました。ラストでは思わず胸を突かれました。いい劇でした。出雲弁に書き直したしたのもよかった。生活語は空気のように皮膚を通して入ってきます。
17年松江商業
 17年の商業の劇も素敵でした。舞台が豊でした。4人の役者がとてもうまく安心しほれぼれとして見ていました。中国大会へも出場しました。
 松江商業は難しいけどいい脚本を選び役者を鍛えていい劇に仕上げます。同時に演出(顧問の野村みさ子先生の指導も)の力が劇全般に行き届いているのを感じます。
松江東
 顧問の岩町先生の創作です。ここ数年意図的に一つの劇のスタイルを追求しているのが分かります。テーマは家族。間の多い劇。情感が滲み出るような劇。存在を問いかけるような劇。
 今回の劇では両親が離婚し母が自死した三人姉妹の生き方と葛藤がテーマです。劇を観ながら、岩町カラーも完成に近づいてきたな、と思いました。
 家族の問題は永遠のテーマであり、現在の日本においては最大の問題です。しかし高校演劇で真正面から取り上げる学校はありそうでないのです。それだけでも貴重です。お笑いとハイテンポの劇が流行っている現状の中では珍しく貴重な劇でもあります。とても重くて暗いので、今の高校生気質から見れば、彼らにはやりにくい劇といえるかも知れません。しかし3年の角田さん、山口さん、2年の河上さんはとてもうまく演じました。いつも思うことですが高校時代の一年の成長は竹の子のようです。3年ともなれば余裕と豊かさがありながらも舞台がピシッとしまります。
 特に感心したのは3人の会話です。メモには「3人の会話のやり取りが絶妙」と書いています。会話のスピードはとても速い。普通これだけのスピードで話したら分かりにくいところが出てきますが、どの言葉も正確に届きます。そして時として長い間が続きます。それが生きています。長い無言の時間でも3人の役者の心が生きていて沈黙をしっかり支えているのです。3人をしっかり指導した目の高い演出を感じます。
 岩町さんは大田高校で一緒でした。卓球のベテランでもあるために、演劇部の顧問にしてもらえませんでした。でも大田では演劇の夜間練習などにつきあってくれました。いま東校では卓球の顧問も同時にしているそうです。進路指導部長も!その上に県大会の事務局長も!そういうなかで脚本を書き劇の指導もするのですから頭が上がりません。
 特徴がある岩町脚本を生かすのは役者です。下手な役者ではあの間は持ちません。死にます。退屈な時間になります。今回の劇の成功は、現代の最大のテーマを扱い、脚本が骨太で明確な構図をもっていて、葛藤と対立のクライマックスをしっかり据えた感動的なものだったことと、それを美事に演じた3人の部員にありると思います。
 舞台装置も自然でよかったのですが、いい場面を写真にとることができず残念でした。
 劇が終わって岩町さんへ「平田オリザの’静かな劇’を意識してつくているのか」と聞きました。特に意識してはいないとのこと。でもぼくには「静かな劇」の成功例の一つのように思えます。
17年松江南
 今年の南校は「幕末写真帳・イサム」(水川裕雄・作)で近藤勇の一人芝居でした。一年の錦織芽依さんが近藤勇の衣装をつけて堂々と演じました。劇を観ていてうっかり写真を撮るのを忘れてしまい、一枚もありませぬ。残念。誰か送ってくれたらここへ挿入しますが、まさか写真を撮った人でこのブログを見るような人はまずありえませんから書くだけで無駄の上塗りですが、書いてしまいました。無駄の二重上塗りでした。
 近藤勇の姿が美事でした。何よりも50分近い長いせりふを覚えたことだけでも拍手拍手!です。部員が一人になっても発表してくれた錦織さんの気概に拍手!です。
 動きも入れてよく演じていましたが、まだまだ表現を工夫すれば面白い一人芝居になります。一人芝居としてはとてもよくできている脚本だと思います。
 照明や音響などもバックアップして濃密な時間でした。

 部員減少により、今後も一人芝居は増えてくるでしょう。その時ぜひ創作脚本に挑戦してほしい。絶対に面白いものができます。よ~し、ぼくも書いてみるかな。

むらむら、ムラムラ、村村、叢叢、屯屯、邑邑・・・パソコンは便利だね。思わぬものがいくらでも出てくる。もう6時間近くパソコンに向かい合っていて疲れや脳のチホ状態もあってまたまた長い長い文章をここまで読む人はまぁいないだろうと思ってちょっとだれてきて自分に活を入れたり自分を笑いで励ましたりするために思わずつまらぬことを書いてしまいましたがあとすこしだ頑張りましょう。

情報科学
 既成の脚本ですが、顧問の岩谷正枝先生が潤色されました。この劇は舞台の枠を突き破るような広がりや表現術やテーマを豊にもっているいるのがとても印象に残ります。出だしからとても意欲的です。特徴のある音楽が流れ詩が朗読され、客席にいた4人が立ち上がって何かを表現しながら舞台へ上がって行きます。
 演劇部内部の人間関係が描かれているのですが、それぞれが抱えている問題は個人の問題でありながら普遍的な問題でもありるために劇が広がって行きます。時代性や文学性をもった良い脚本だと思います。
 一年生が4人、2年生は前田さんと杉原さんの6人が登場する劇です。テーマはよく表現していたのでしっかり伝わってきました。2年生は役を印象的に演じていました。激しいぶつかり合いも美事で、「劇は激だ」ということを実感させられました。
 広がりと集中のある良い舞台でしたが、あちこちに無意識な表現(喋るときに手を組む癖や客席に向かって喋る癖、未消化な身体表現など)が気になった。練習時間があり通し稽古が何回かできる時間があれば修正できることだが、実際の現場では通し稽古などできる時間はないのはよくわかっている。
 装置も時間と人手をかけて作り、手抜きがないのは劇への部員の熱い思いを示し劇を豊かにしていましたが、壁が真っ白だったのは失敗。照明が当たれば人物が見えにくいし目が痛い。写真に撮ればハレーションを起こして人物は見えにくでしょう。特に意図がない限り装置は目立たす邪魔をせず、気がつけばあるべきところへあるべき色と姿で存在していた、というものがいいのではないでしょうか。

 顧問の岩谷先生は脚本も書かれます。少し泥臭いけど真摯で誠実な生き方を求めた心を打つものを書かれます。今年は既成でしたがまた来年は意欲的な台本を楽しみにしています。

 思わぬ出会いが確認されました。7月2日に「第2回朗読を楽しむ」を市民会館で開き吟詠で岩谷淳一さんはじめ朝山支部の皆さんに出演していただきましたが、その岩谷さんは岩谷先生のお父さん(義父)だったのです。サパライズです。そうするといつか大田へ帰って来られるかも知れませんね。大田幸、大田港、大田考、大凧?

 県大会へは3校が決まりですが、講師の特別推薦があれば4校も可能という規定により4校になりました。松江地区は、以前からレベルが高い劇を上演しているので当然です。
 以上、思っていることの三分の一くらいを書きました。高校演劇も応援します、という劇研空の方針により参考になればと思い書いたものです。失礼があったらお許し下さい。また反論や感想があったら書いてください。何か反応が返ってくると、ああ
ここを読んでくださる人もいるのだなぁ、と存在意義にホロリとします。
 
柏木直人さん
 忘れていました。松江地区大会では初日の最後に柏木直人さんの「語」りがありました。民話の語りですが舞台を広く使って動き、即興のアドリブも入れて巧みな語り口で楽しませていただきました。柏木さんは「むぎわらぼうし企画」を主宰し毎年朗読劇「この子たちの夏」を上演しておられます。
 10月28日(土)には安来で「花いちもんめ」が上演され柏木さんの演出です。観にいきたいと思っていたら県大会と重なります。残念!

 平成18年度 しまね文化ファンド助成事業 若い芽プロジェクト 「松江地区高校演劇フェスティバル」

 これが正式な名称です。若い芽プロジェクト という名称は多分17年度から使われるようになったと思います。高校生の演劇発表の中に地域の演劇団体の上演を加えお互いの刺激や学び合いの場にし、地域の演劇団体にも発表の場を提供しようという趣旨なのかも知れません。勝手に推測して書いているのですが、とてもいいアイデアだと思います。
 高等学校の部活動はもっと地域社会の中に出て成果を問い、地域の人たちと交流し、地域のことを学び、地域の文化に貢献すべきです。高校生は大人です。それができる力を持っています。そういう観点から生まれたプロジェクトなのかも知れませんが、そうであれば地域にもPRして50人くらいでも一般の観客が入るようにしたいものです、が、言うは易く行いは難し、です。
 石見地区大会は美都町で行われ石見の劇団「Mag2」がいい劇を見せてくれましたが、20人くらいでも地域の人が観にきてくれたら…もったいない…と思いました。
 

投稿者:

suhama

1940年、島根県邑智郡邑南町下亀谷生まれ・現在、大田市久利町行恒397在住・早稲田大学教育学部英語英文科卒・邇摩高校、川本高校、大田高校で演劇部を担当、ほぼ毎年創作脚本を執筆。県大会20回、中国大会10回出場(創作脚本賞3度受賞)主な作品「廃校式まで」「それぞれの夏」「母のおくりもの」「星空の卒業式」「僕たちの戦争」「峠の食堂」「また夏がきて」「琴の鳴る浜」「石見銀山旅日記」「吉川経家最後の手紙」「父の宝もの」など。 著作:「洲浜昌三脚本集」(門土社)、「劇作百花」(2,3巻門土社) 詩集「キャンパスの木陰へ」「ひばりよ大地で休め」など。 「邇摩高校60年誌」「川本高校70年誌」「人物しまね文学館」など共著 所属・役職など: 「石見詩人」同人、「島根文藝」会員、大田市演劇サークル劇研「空」代表、島根県文芸協会理事、大田市体育・公園・文化事業団理事、 全国高校演劇協議会顧問、日本劇作家協会会員、季刊「高校演劇」同人、日本詩人クラブ会員、中四国詩人会理事、島根県詩人連合理事長、大田市文化協会理事

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