三刀屋高校の「三月記~サンゲツキ~」(顧問 亀尾佳宏・作)は第52回高校演劇京都大会で優良賞でしたが審査委員特別賞を受賞し、他の4校とともに国立劇場で上演します。NHK衛生第2「青春舞台2006」で、28日(月)12:15~から今年も全国放送します。ぜひみてください。(写真は山陰中央新報より)
今年も全国大会へ行く予定でホテル代も前納し汽車の切符も購入し、大会の脚本を載せた「演劇創造」も読み、万全の準備を整えていたのですが、1日の朝、車に乗せられて行ったのは病院。そこで5日間を過ごしました。劇は見ていませんが上位の結果だけ書いておきます。
文部科学大臣賞は同志社高校の「ひととせ」。一人だけになってしまった演劇部員の独白劇です。一人でも多様な表現ができるように、とてもうまく脚本が書かれていて感心しました。作者の奥田奈菜津さんは演劇部員です。
文化庁長官賞は次の3校です。
北海道釧路北陽高校「ラスティング ミュージック」脚本はまだ読んでいませんが、作者の山口慶美さんは演劇部員のようです。
埼玉県立秩父農工科学高校「サバス・2」(安息日)作者は顧問の若林一男さん。昨年もすばらしい劇でしたが、今年の脚本は従来になく分かりやすいのが特徴です。目で読んでも面白いし、劇としてよく工夫されています。劇の構造や装置が生きていてさすがにベテランだと思って読みました。
山梨県立甲府昭和高校「全校ワックス」中村勉・作。女性徒がワックスがけをしながらつまらない会話を繰り返します。その会話も素っ気なくとても短い会話なのが特徴です。特に内容があるわけではなく脚本で読む限り、退屈でした。同時に作者の中村先生は、舞台にして演じたときの効果を計算して書いておられる。役者たちがテンポよくうまく演じれば、現代の高校生の特徴的な風景が出てくることを計算して書かれたのでしょう。脚本がどんなに鮮やかに立ち上がってくるかとても楽しみです。
三刀屋高校の脚本についてはこのブログで昨年書きましたので省略します。
亀尾さんは、17年度島根県文化奨励賞を受賞しました。おめでとうございます!!
演劇の全国的な活躍が認められたものです。教員になってまだ7年目ですからすごいことです。ぼくの所にもある筋から℡がありましたが、「島根で近年出なかった才能の持ち主です。全国的にもトップグループの人材です。」と話しておきました。岩町功先生以来の人材ですが、脚本では二人は全く世界が違います。時代の空気をつかみcreativeな脚本が書ける点では亀尾さんは全国でも負けないでしょう。
松江工業へ赴任して最初の劇から創作でした。
平成12年「スタートライン」
平成13年「人生ゲーム」県大会出場
平成14年「ぽっくりさん」全国大会
平成15年「笛男~フエオトコ~」中国大会
三刀屋高校へ転勤。部員はほとんどいない状態で健闘。
平成16年「お葬式」中国大会
平成17年「三月記~サンゲツキ~」中国大会出場、全国大会出場決定
平成18年 何をやるかな?
ぼくは松江地区大会の講師で行っているので、最初から亀尾さんの劇をみて来ました。1年目は特別注目することはありませんでした。多分部員もいない状態でのスタートだったでしょう。しかし2年目から、その力量に注目しました。脚本が書けるだけではなく演出にも力量があり、音響や装置にもセンスがあり万能です。何よりも劇が面白い。観客を巻き込む劇作りは群を抜いていました。
次の文は「日本劇作家協会会報39」からの引用です。この中に高校演劇のページが1ページあり、堀江辰男氏が高校演劇の歴史的な特徴をたどりながら、「第3世代が登場した」という小見出しの中で次のように書いています。
「1990年代の後半になると、プロ作家の作品は成井豊氏を最後に急減してゆき、2000年代に入ると、生徒創作の増加、生徒と顧問のコラボレーションなどの試み、そして顧問教師に書き手としては、前述の創立時のメンバー(榊原政常、林黒土、本山節弥、町井葉子など)第2世代はそれを継承発展させた福島県の石原哲也氏を代表としよう。さて今この第3世代として筆者が最も注目しているのは青森県の畑澤聖悟、千葉県の阿部順、島根県の亀尾佳宏の3氏などである。時に嘘を信じ込まされ、あっと驚き、えーっ、そうなの? 等々、切口の新しさに、展開の巧みさにしっかり翻弄されたあげく、深い感動まできちんと頂けるのである。」(以下略)
上の文の後半を読んだとき、プロの中にも、同じ様なことを感じている人がいるんだ、と驚き、感銘を受けると同時に、見る人は見ているのだと感心しました。特に、核心を突いた簡潔な言葉で劇の特徴を述べているところではプロの見る目の的確さとその表現に唸りました。
亀尾さんはいま東京でしょう。国立劇場で上演する「三月記」を楽しみにしています。きっと反響を呼ぶことでしょう。
9月中旬からはまた地区大会が始まります。大変です。三刀屋はもうできているでしょうか。2日前に脚本が7割できて、前日の夜2割できて・・・それでもいい舞台を当日には作るのですから脱帽です。
島根県大会は10月27,28日。県民会館です。久しぶりに持田先生も講師で来られます。ぼくも行きます。楽しみにしています。
延々5時間30分テレビを見ました。カミサマと一緒に見始めたのですが、カミさまはそのうち、「面白くない、高校演劇なんてこんなもんかね」などと言って台所へ。やがてまた来て熱心に見始めて、「よかったね」。ぼくは途中、Before I knew,I found myself sleeping 状態もありましたが、ほぼ熱心に見ました。
一番面白く我を忘れて見ていたのは甲府昭和高校の「全校ワックス」でした。これは演出賞を受賞したのことですが、さもありなん、とうなずけます。短い内容のない会話(というより言葉、というより単語)でできていて、下手に演じたら退屈極まりない劇になる可能性がありますが、5人の女性徒たちがワックスがけをしながら記号のような短い単語が交わされる中で、面白い意味や内容や性格や人間関係が浮かび上がり、なんとも言えない味が出てくる。劇が進むにつれて、5人の個性もはっきり見えてきて、やり取りがますます面白くなる。記号のような単語の交換には無意味なことも多い。相手の心理状態では答えがないこともあるし、意味が相手に伝わらないこともある。途切れたままのこともある。しかしその理由探りや意味付けをしないでリアルタイムでワックスがけはどんどん進む。学校の都合で関係なく選ばれた5人の班だが、1時間ワックスがけをしているうちに個性や内面や人間性や関係が浮かび上がってくるという実によくできた舞台だった。脚本もよくできているけど、それを十分に生かして演出し演じた部員に乾杯!です。
三刀屋の劇をテレビで見るのは酷だなと思いました。
3人の舞台だが、前半は2人だけ、それをテレビはアップで写す。変化の激しい会話をどんな顔で演じるか。アップで写る顔はあまり変わらないので、言葉の背後にある心が見えない。先生役の八木君はとてもよく動いているし表現しようと懸命に努力している。だけど言葉の底が見えない。単なる軽薄なふざけに見える。
劇場なら表現が下手でも熱意が伝わり観客を独特の雰囲気に巻き込むことができるけど(この劇はそれで成功してきた)テレビの前の聴衆は冷静そのもの。寝ころんで、熱い熱いと文句を言ったり、お茶を飲んだり、劇に文句をつけたりしながら、岡目八目で眺めている。高泉さんも「へたですね」と何度か言っていましたが、テレビではそれが拡大されるわけですから酷です。言葉の深い陰影を顔や体の表現はいつも単純平板にして欺いているのです。
難しい役です。プロでも大変でしょう。よく頑張ったことは認めながら、数時間後に自殺を決意している先生が一人の女性徒と長々とお笑いの掛け合いをる・・こういう難しい役を演劇を始めたばかりの高校生が演じるのは大変なことです。
しかし高泉さんも言っていましたが、「劇はうまさではない。この劇にはライブ感覚が生きている」のです。後半になるにつれて観客を巻き込んでいったことがテレビでも分かりました。平田オリザさんは「脚本が落ちに頼りすぎたのは難」だが八木君は台本をよく生かしたと言っていました。
3人で舞台の空間を支えたわけですから大したものです。おつかれさまでした。
最優秀賞の「ひととせ」は、奥田菜津さんが書き演じるという正に一人芝居。犬のぬいぐるみや、マネキンとの会話などを入れて単調になる会話を豊にしたり、体育館でのクラスの劇の大歓声や拍手などを、一人で演劇部の部室で聞いている状況など、いろいろと工夫して劇をふくらませていました。演技もすばらしく感心しました。
大勢の人の協力で劇ができたことに対してとても謙虚に感謝しておられました。その人柄があったからこそ、多くの生徒さんたちがスタッフとして協力したのだろうと思いました。
秩父農工科学の「サバス・2」は優秀賞3校のなかに入っていたので楽しみにしていましたが、どういう訳か国立劇場での上演はありませんでした。その代わりに三刀屋が行ったことになりますがどんな事情があったのかテレビでは説明がありませんでした。
秩父農工科学のような劇が全国へ放映されれば、高校演劇を見直す人たちが増えるのではないかと思います。発想や劇作りや表現において高校演劇の枠を越えているからです。役者も訓練を積んでいて表現のレベルも高く大人の劇を見ているかのように安心して楽しむことができます。見られなくて残念でした。