中四国詩人会の第4回大会を松江市で開きました。劇研「空」は招かれて朗読をしました。講師は倉橋健一氏。約80名の詩人が参加し有意義な大会になりました。中四国詩人賞の授賞式も行われました。当日の概要を記してみました。
中四国詩人会・松江大会を終えて 洲浜昌三
平成16年9月25日、松江の「サンラポーむらくも」で第4回中四国詩人会大会が開催され、有意義なひと時を過しました。県内から20名ばかり参加していただき、受付や会場作りなど協力していただいたことに、まずお礼を申しあげます。
中四国詩人会が発足して以来、岡山、広島、山口と大会が開催されてきました。第4回大会を島根でお願いしたい、と岡山市で開かれた理事会で言われ、不意打ちに戸惑いました。弱小詩人連合島根は最後だと思っていたからです。しかし事務局の皆さんの献身的なご苦労を考えれば、ノーとは言い難く、出来ない理由をあげて、弁解の人生に上塗りをするのも見苦しく、「相談してみます」と答えましたが、同時に不安もよぎりました。
参加者数の問題です。交通の便が良く会員数も多い山陽側とは違い、島根は不便です。県内の会員はわずか14名です。しかも個々の会員の現状を考えると約半数の参加しか望めません。
理事の川辺さんや副会長の田村さんと相談し、県内の詩人45名(山陰詩人、石見詩人、光年)に参加要請のハガキを送り、マスコミ8社には開催要項を送りました。隠岐から横田さん、京都からは真田さんも参加してくださり、県内から合計約20名の参加者がありました。過去最高の数です。島根県詩人連合の総会を開いても例年出席者は10名内外ですからこの数には頭が下がりました。総会は約80名、懇親会は60名近い参加になり、肩の荷が下りてほっとしました。
今回の大会で目標にしていたことが3つありました。参加者は60名以上(懇親会は50名以上)。経費を抑えて火の車会計に貢献する。これは実現しました。もう1つは、島根らしい大会にすること。この成果は量ることはできませんが、大会後の皆さんの感想や手紙などから、何かを心に残すことができたのではないかと思っています。
大会で中四国詩人賞が発表され、岡山の平岡けいこさんの『誕生』と境節さんの『道』が受賞、朗読もされました。開催県の島根の理事は審査委員長だと言われ、その役を務めましたが、発会時の理事会で、賞の創設に反対したぼくとしては今も複雑な心境です。
審査委員は各県から5名。川野圭子(広島)、沖長ルミコ(岡山)、扶川茂(徳島)、渡辺兼直(鳥取)、洲浜昌三(島根)で、渡辺さんは欠席、手紙による投票だった。話し合いをして、投票。さらに話し合って二度目の投票をして議論したが、上記の2冊の詩集は同数となり、優劣をつけることが困難ということで今回は二人の受賞ということに決まリました。
『誕生』(星雲社)は詩画集で英訳尽きで詩集としては異色だったが、評価は詩作品だけに限った。歴史や文明や社会と誠実に対峙して、自己の存を問う姿勢が一貫している。観念が上滑りせず、思考が地に付いていて、言葉に力があり、文学性も高い。平岡さんは津山市に在住、英会話教室を開設しておられる。受賞式では英語で自作詩を朗読されたが、みごとな英語であった。まだ若く、これからが大いに期待される詩人です。
『道』(思潮社)は身辺に素材をとり、作者の感慨や回想、ふとした迷いや懐疑を、素材の中に自然に溶け込ませ、雰囲気のある世界をつくりだしている。言葉は平易だが、思い切りよく重ねていく詩句にはリズムがある。ベテラン詩人らしい安定したエッセイ風の世界や独自の認識を味わうことができる。1932年生まれ、倉敷市在住、本名は松本道子。詩集も多く、これは第7詩集。故長瀬清子さんに薦められて「黄薔薇」の同人になったという岡山県の詩歴の長いベテラン詩人です。
講師には大阪の倉橋健一氏をお願いしました。演題は「作品行為をめぐって:詩を書く現場から」。僕は裏方雑務のため後半しか聞けませんでしたが、次のような言葉が印象に残っています。
「オリジナリティは5%あればいい」「一行をまず書く。そこから二行目が出てくる」
劇研「空」が特別出演したのは、会長の御庄さんから依頼されたからです。旧制大田中学、大田女学校が陸軍病院に指定され、何百人もの被爆者が運ばれたことを劇にし、その公演記録を御庄さんに送っていたからです。
御庄さんは広島出身で医者でもありますが、峠三吉と交友があったという貴重な詩人で、原水爆禁止世界大会で群読詩なども書かれたことがあります。韓国人の被爆者を励ましてた記録はNHKでも放送され、NHKのアーカイブ入りしています。そういう経験があったので、劇研「空」の公演に目を留められたのでしょう。
30分の限られた時間ではでは劇は無理なので、島根以外にはない作品の朗読をしました。山本和之が原敏さんの詩集から石見弁の詩、吉川礼子が田村のり子さんの出雲弁の詩、田中安夫が浅原才市の口合い詩、洲浜が出雲風土記の「国引き」、松本領太が柿本人麻呂の長歌、石見銀山の歴史と民話から洲浜が創作した朗読と語り劇「鶴」を田中、松本、山本が群読。山本は事務局長・長津功三郎さんの原爆詩も朗読しました。司会進行は吉川さんにお願いし、解説原稿は洲浜が書きました。
終了後、厳しい批判や温かい忠告や感動の言葉をいただきました。参加者の中には大学の教授で国語や言語の専門家もいますし、朗読の大ベテランもいます。そのことを思うと大冒険でもありました。朗読というのは感情抜きで淡々と字を音声にすれば、詩人は好感を持ちます。押し付けがないからです。解釈や感情の押し付けは禁物です。しかし淡々と無表情な言葉で朗読したら、退屈し眠くなります。朗読の難しいところです。 劇研「空」は詩人の集まりではなく演劇人集団です。大袈裟にならないように、押し付けにならない程度に言葉に微妙な表現や表情をつけて朗読しています。
それでもその点では批判も受けました。方言についても一部助言を受けました。人麻呂の短歌や長歌の朗読は今後の研究課題でもあります。7・5調などの定型詩の朗読は難しい。リズムや流れに乗りすぎると、内容が逃げてしまいます。しかし型が基本ですから、無視するのは不可能です。
懇親会はいつものように、あっという間に終わりました。旧交を温め、名前だけを知っていた詩人と面識を持つ。これがこういう会の意義かもしれません。
懇親会が終わって、サンラポーを出ました。店を探して深夜の町を歩きましたが、殿町周辺には店がありません。川を渡って遠くまで歩きました。やっと見つけて入ると、他の詩人たちも来ていました。そこを出て、三次会まで倉橋さんや、『金田君の宝物』で54回H賞を受賞された広島の松岡政則さんたちと飽きもせず詩について語り合いました。
詩人であり評論家としても広く活躍されている倉橋さんを前にして、「500年たっても作品が残っている詩人は○○さんだけですよ」と調子に乗って極論を吐き、倉橋さんから、「それは言い過ぎだ。その言葉は取り消せ」、と怒られましたが、倉橋さんは何でも言える気さくな人で、ついついその懐の深さに甘えてしまったのかもしれません。
翌朝、初代事務局長で中四国詩人会の生みの親でもあり、岡山大学の英文学科の教授でもあった岡隆夫さんにロビーで出会ったら、「いい大会でした。大成功です」と言葉をかけてくださった。この岡先生が、前年に開かれた理事会の前に僕を部屋の片隅に呼び、「島根で次の第4回大会を開いてくれませんか」と声をかけた人だったのです。
痩身白髪、眼鏡の奥の目が優しい先生の予期しない言葉は、ズシンと胸に応えました。
(島根県詩人連合会報58号に掲載した文章に若干追加しました)
注 倉橋健一氏の著作は「倉橋健一選集 ー文学エッセイ集ー 」(全6巻)として
● 澪標 ● ℡(06-6944-0869)より出版されています。各定価は3000円。昭和30年から2003年までの、朝日新聞、毎日新聞、現代詩手帳などに掲載された詩時評や書評やエッセイなどをまとめた選集です。