2005年(平成17年)5月8日(日)八雲村の「しいの実シアター」で松江市の劇団Yプロジェクトの劇をみた。この前は外国劇だったが今回は原案Yプロジェクトで、脚色・演出は劇団代表の坂井陽介さん。坂井さんによると数人で話し合い、それを坂井さんが脚本にしたという。脚本もよく出来ていて、劇も癖がなくすっきりとして、さわやかなコメディに仕上がっていて、楽しくみることができた。
劇の副題は「豪田結婚相談所物語」。結婚相談所を経営している未亡人の豪田小夜子とそれを手伝っている息子の光。そこへ色々な人が相談にくる。ある日うだつの上がらない百姓風の畠山孝一がおずおずと相談にくる。母から持っていけと言われて、大根をみやげに持ってきて笑わせる。孝一は何人も紹介されるてつき合うが、ことごとく断られる。若い現代娘とのデートも笑わせる。小夜子はもてない孝一のために「畠山孝一変身大作戦」と称して色々アドバイスしたり、服装や言葉使いなどまで丁寧に指導する。しかし孝一はまたも交際していた女性に振られてしまう。絶望していた孝一の心の中にいつの間にか小夜子が大きな存在を占めているのに気づく。孝一は小夜子へ思いやりを示す。しかし小夜子は相談員として新設に対応しているので孝一の熱い思いをすぐには気がつかない。負債もあり金を貸してくれるところもないので、相談所を閉鎖することに決める。そこへ孝一がきて、金を出してやるという。小夜子は孝一の気持にはじめて気がつく。
ストーリーの構成もよく出来ていると思いました。孝一が小夜子に好意を持ち小夜子は職業として孝一に尽くしているのでそれに気がつかないというところが劇の仕掛け(井上ひさしさんの言葉を借りれば「機知」)ですが、観客には意外に早くそのことはわかります。最後の瞬間まで観客にも小夜子にもわからないように脚本で仕掛け演出すると、劇の衝撃力が更に大きくなるのではないかと思いました。
暗転が多く(こういう劇で暗転が十数回あると劇がスライドのように平板になり立体感がなくなる)いい音楽を入れて劇の流れを切らない効果的なところも多かったのですが、音楽もなくぷっつりと切れるところもあったのは何故かなと思いました。装置は机と3枚(2枚だったかな)のパネルだけですが、室内と戸外でうまく使い分けていました。女性陣も達者で安心して見ることができました。白築明嗣さんはうだつのあがらない孝一を素朴に演じていて存在感がりました。ただ光だけは初めから最後まで劇の中に溶け込んで来ないという違和感がありました。脚本の中での存在に必然性がなく付け足し的なところがあり、矢澤さんも劇中の人物として演じるのではなく常に素のままだったとぼくには思えました。笑わそうととして演じるとその意図が見えて笑えません。劇場が小さいので力まず自然な発声で演じられるのはとてもいいことですが、普段の声になってしまうと他の役者とのアンバランスが生まれ劇の世界から日常へ観客が返ってしまう危険性があります。笑いも起こり、リラックスして楽しくみたのですが、工夫したらもっと笑いが起こるのではないかと思う場面もありました。
中国で働いていて、たまたま大田へ帰っていた長男と妻の三人でみに行きました。息子は「あんなに近くで劇を見たのは初めてだった。とても面白かった」と言っていました。役者を間近に見られる100人劇場の良さですね。妻も「面白かった。前回の外国劇よりもよかった。」と言っていました。ぼくも同感です。
再演も決まっているとか。楽しみですね。この劇は修正・削除・変更・追加を重ねていけば、Yプロジェクトの財産になることでしょう。
そのうち感想を書きます、と坂井さんへ言っていたので問題点も含めて率直に書きました。次回の公演を楽しみにしています。