石見が舞台 浜田で神楽と演劇のコラボレーション

あなたの鍾馗は誰ですか
2007、8月25、26日石央文化ホールで、創作てんからっと主催の演劇が上演されました。石見神楽と演劇のコラボレーションという意欲的な挑戦で浜田の若い劇作家・演出家・役者でもある岩崎理恵さんの創作でした。演劇の大先輩・岩町功先生の案内もあり二人で観劇にでかけました。神楽と劇をどの様に融合させるかー難しいことですが興味もありました。
山陰中央新報文化欄に書いたものを参考までに紹介します。


 最近は「20分で演じてくれ」などと主催者から注文がついて短い神楽を見慣れていますが、本来は一時間近いのが普通です。劇に取り入れるとき神楽を30分以上も上演したら劇と神楽は水と油になります。しかし誇りを持って舞っている神楽団の人たちに「5分でお願いします」と言うのは難しいことです。

 3年前大田で石見銀山の民話から「鶴」を上演したとき、尺八や琴や天領太鼓、合唱、舞踊、よさこい踊りなどたくさんのベテランに出演を依頼して上演しました。演出はプロの山城賢治さんと勝部義夫さん。銀山太鼓の近藤先生が10分と言われて作曲し練習した太鼓の曲を、練習のときには2分くらに切りました。大変険悪な空気が流れました。しかし演劇のプロは譲りませんでした「長すぎたら劇のテンポが狂う」というわけです。琴や尺八、日本舞踊の師匠さんに対しても時間は最優先で厳しく演出されました。

 しかし僕らが地元の人たちと一緒にやるとき、演出上の観点だけではできません。協力、協調、仲良く、楽しく…という精神より芸術を優先するのは難しいことです。今後も一緒に地域でやって行かなければいけないからです。

この難しさを「あなたの鍾馗は誰ですか」でどの様に解決しているか。見る前からの最大の関心事でした。
美崎理恵など

        山陰中央新報文欄より
 時代の片隅で忘れられ、中央にはほとんど知られていなかった「石見」が、石見銀山の世界遺産登録を契機に全国に報道されるようになった。観光客も急増、この七、八月だけで十六万を数え、年間百万に達する勢いだという。

 演劇や映画の分野でも、石見を主な舞台にして作られ、全国的に評判になった作品がいくつかあった。

 三月から六十回にわたってTBS愛の劇場で放映された『砂時計』は、三百五十万以上売れた芦原妃名子の同名の人気コミックからドラマ化され、石見銀山や琴ヶ浜、宍道湖など島根の美しい風景がふんだんに盛り込まれた純愛劇である。

 現在も全国各地で上映中の『天然コケッコー』は、三隅町ゆかりの漫画家、くらもちふさこ原作のミリオンセラーコミックからの映画化で、浜田周辺の四季折々の美しい自然を背景に、子供たちの成長と恋を描いた新鮮なドラマである。画面の風景が美しいので、CGで合成したのではないかという声もあったという。山下敦弘監督は天然の日本の原風景をそこに見て映像化したのだろう。

 時代の先頭を走っているものは、価値観や認識が変われば、滅びの先頭かもしれない。「逆も真なり」と自然と開発について思うことがある。石見銀山はその一例である。

 八月五日にはNHK松江放送局が作成した「先生の秘密」が全国に放映された。
 昭和二年にアメリカから日本の小学校へ友情の青い目の人形が送られた。戦争が始まり文部省は廃棄処分を命じたが、今福小学校ではある教師が天井裏へ隠して守った。その事実を基に美崎理恵が台本を書いた。青山草太が若い教師をさわやかに演じ、織本順吉、戸田菜穂などベテラン俳優が存在感を示し、松江の「幻影舞台」や地元の役者、脚本を書いた美崎自身も出て好演した。出雲弁が出てきたりして違和感も少しあったが、四十七分という短い時間内にテンポよくすっきりと仕上げられたいいドラマだった。

 八月二十六日、浜田の石央文化ホールで市民参加創作劇『あなたの鍾馗は誰ですか』が上演された。周布青少年神楽団とのコラボレーションという挑戦的な舞台で、浜田のNPO法人「創作てんからっと」が主催し、オーデションで選ばれた市民が多数出場した。

 この法人には「石見フイルムコミッション」部門があり、前述した映画やドラマ制作にも隠れた貢献をしていたのである。創作の核となり、興味関心に応じて市民の参加を引き出すこの体制は、時代の空気や感覚にマッチし、今後も力を発揮しそうである。

 『あなたの鍾馗は~』では神楽の時間の長さのために劇と並立的になった難点はあったが、いい舞台だった。下手に石見に住む職人気質の父の家、上手に反発して東京に出た娘の部屋。中間は様々な場面に使われる空間。この設定が奥の深い多様な表現を可能にした。子供たちを含めすべての役者が伸び伸びと演じたのも成功の要因だった。演出し、石見弁の老婆も自ら演じた美崎の達者な演技は劇を楽しくし、豊かにした。

 作者の美崎は浜田高校時代、「オズの魔法使い」を脚色して自ら主役を演じ、作詞作曲をし中国地区代表として全国大会へ出場して注目された。僕はこのとき地区大会の講師をしたのでよく覚えている。高校演劇全国大会でミュージカルが上演されたのは初めてであった。長谷川(当時の)は劇団四季から受験しないかと声がかかったという。

 高校演劇で活躍した人たちが、地域の演劇文化を支えているのである。
a href=”https://stagebox.sakura.ne.jp/wp-content/inportimg/img17_DSCF0034.JPG”>あなたの鍾馗カーテンコール今までに『島村抱月』『会津屋八右衛門』など地域の素材を生かし名舞台を生み出した岩町功は「石見が舞台」と唱えた。その大きな視点が、若い人たちの手で具体化しているのを見た思いがした。
                          (日本劇作家協会会員 大田市演劇サークル劇研「空」代表)2007、9,27山陰中央新報より。紙上の写真は神楽の場面のみ。<

 岩崎さん(美崎はペンネーム)たちが活動する「創作てんからっと」は次の活動を開始している。先日電話がかかってきて、子供を含めた映画のエキストラを募集しているという。まだ題名は公表できないそうですが、すごい映画です。

 希望者がいれば岩崎さんへすぐに紹介しますよ。

投稿者:

suhama

1940年、島根県邑智郡邑南町下亀谷生まれ・現在、大田市久利町行恒397在住・早稲田大学教育学部英語英文科卒・邇摩高校、川本高校、大田高校で演劇部を担当、ほぼ毎年創作脚本を執筆。県大会20回、中国大会10回出場(創作脚本賞3度受賞)主な作品「廃校式まで」「それぞれの夏」「母のおくりもの」「星空の卒業式」「僕たちの戦争」「峠の食堂」「また夏がきて」「琴の鳴る浜」「石見銀山旅日記」「吉川経家最後の手紙」「父の宝もの」など。 著作:「洲浜昌三脚本集」(門土社)、「劇作百花」(2,3巻門土社) 詩集「キャンパスの木陰へ」「ひばりよ大地で休め」など。 「邇摩高校60年誌」「川本高校70年誌」「人物しまね文学館」など共著 所属・役職など: 「石見詩人」同人、「島根文藝」会員、大田市演劇サークル劇研「空」代表、島根県文芸協会理事、大田市体育・公園・文化事業団理事、 全国高校演劇協議会顧問、日本劇作家協会会員、季刊「高校演劇」同人、日本詩人クラブ会員、中四国詩人会理事、島根県詩人連合理事長、大田市文化協会理事

「石見が舞台 浜田で神楽と演劇のコラボレーション」への2件のフィードバック

  1. 12月15日に大田名画シアターで「天然コケッコー」が上演されたので妻と観にいきました。ミリオンセラーコミックからの映画化ということで若い人たちや子供たちもたくさん来ているだろうと期待して行ったのですが、70名くらでした。子供は数人。後日主催者に会ったところ、「もっと若い人がきてくれるかと思った」と残念そうでした。
    原作者くらもちふさこさんは浜田に関係がある人だそうですが、脚本の渡辺あやさんは島根県に住んでおられるそうです。
    たまたま深夜におNHKを観ていたら渡辺さんが対談で出演しておられ、島根に住んでいると紹介されたのでびっくりしました。どこに住んでおられるかは知りません。
    さて映画は確かに浜田周辺の美しい風景がふんだんに出てきて心が洗われます。子供たちがとても自然に演じていました。主人公右田そよを演じた夏帆さんも好演でした。
    劇のテンポはとてもゆっくりしていて、最近の劇や映画の早いテンポや大写しや意表をつく演出に慣れている者にはたいくつです。時間がゆっくり流れている田舎を表現したかったのでしょうが、あまり事件もなくサパライズもなく、次はどうなるだろう、という期待感もあまりなくやや期待外れでした。部分部分の面白さや光場面はありますが、全体を通したストーリー展開に一工夫あればよかったのではないかと素人なりに考えながらみました。
    役者の石見弁がとてもうまいので感心してみていましたが、最後に「方言指導、美崎理恵」と字幕に出たので、なーるほど、がんばったな、立派なもんだ、と美崎さんに声をかけたくなりました。彼女は先生役でも登場しましたが、自然に演じていました。
    「砂時計」は映画になるそうで、大田市報にも大きく紹介されています。岩崎さんはこの映画でも裏方として汗を流しています。裏方は大変な仕事です。体に気をつけてがんばってください。

  2.  新聞によると2007年のキネマ旬報映画ベスト10が発表され「天然コケッコー」はベスト2に選ばれていて驚くと共に感激しました。
     石見に住むぼくにはあの田舎の風景は見慣れた風景だし特に強い感動はありませんでしたが、ふるさとを喪失した都会に住む人やこの人間性喪失の砂漠時代のなかでは、生き生きした新鮮な感動を与えるのかも知れません
    石見がいろいろな面で全国的に話題になっています。この映画もそれを提供したすばらしい芸作品です。
    石見人として感謝します。
    高い評価を受けた映画でマンガを読んだ若い人たちがたくさんいたというのに、大田では何故この映画を観にくる人が少なかったのでしょう。僕が行った時は約70名。ほとんどが高齢者。まぁ、いつものことで驚きはしなかったけど…
    ベスト1は周防正行監督の「それでもボクはやっていない」でした。大きな話題を提供した映画でした。大田の名画シアターへきたら是非みに行きたい。

コメントを残す