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1940年、島根県邑智郡邑南町下亀谷生まれ・現在、大田市久利町行恒397在住・早稲田大学教育学部英語英文科卒・邇摩高校、川本高校、大田高校で演劇部を担当、ほぼ毎年創作脚本を執筆。県大会20回、中国大会10回出場(創作脚本賞3度受賞)主な作品「廃校式まで」「それぞれの夏」「母のおくりもの」「星空の卒業式」「僕たちの戦争」「峠の食堂」「また夏がきて」「琴の鳴る浜」「石見銀山旅日記」「吉川経家最後の手紙」「父の宝もの」など。 著作:「洲浜昌三脚本集」(門土社)、「劇作百花」(2,3巻門土社) 詩集「キャンパスの木陰へ」「ひばりよ大地で休め」など。 「邇摩高校60年誌」「川本高校70年誌」「人物しまね文学館」など共著 所属・役職など: 「石見詩人」同人、「島根文藝」会員、大田市演劇サークル劇研「空」代表、島根県文芸協会理事、大田市体育・公園・文化事業団理事、 全国高校演劇協議会顧問、日本劇作家協会会員、季刊「高校演劇」同人、日本詩人クラブ会員、中四国詩人会理事、島根県詩人連合理事長、大田市文化協会理事

H26 しまね文芸フェスタ’14(大田)

2014年度のしまね文芸フェスタは、大田市のあすてらすで9月28日に開催されました。午前中は、児童文学者、童謡詩人の矢崎節夫先生の「みんなちがって、みんないい」と題した講演がありました。ホールはほぼ8割の入りで、情熱を込めた先生の話に耳を傾けました。

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金子みすゞの文学的な側面よりも、生き方や、現代との対比、道徳的な側面に力点を置いた講演でした。現代の社会や人間関係などに危機感を覚えておられることや、参加者が高齢者という配慮があったのではないかと勝手に推測しました。

前日の夜には前夜祭として歓迎会が行われ、大田市教育長、文化協会会長なども参加され、楽しい歓迎会になりました。アトラクションとして大田の女性天領太鼓のみなさんの熱演もありました。文芸協会会長・川柳協会の竹治さんのサービス精神の発露とでもいうところです。行き届いた配慮があちこちにありました。

 

劇研空は平成5年に「詩の朗読と語り劇」を開催し、金子みすゞの詩の朗読や歌を取り上げました。その時、矢崎先生の著作がとても参考になったことを、歓迎会の席で述べました。当時は金子みすゞが世に広く紹介される一歩前のころで、大田市内で名前を知っていた人はわずかだったと思います。金子みすゞが世に広く知られるようになったのは、ひとえに矢崎先生の功績です。

紹介記事を読んでいたら、矢崎先生は、早稲田の大学生のときから「まど・みちおに師事」と書いてありましたので、そのことも尋ねてみました。8月30日に、劇研空でまど・みちおの詩の朗読をやったことも話しました。不思議なつながりを感じました。

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午後の分科会で、詩の部門では約10名参加しました。洲浜君が、郷土の詩人として、石村勝郎さんの詩歴を紹介し、石村さんの詩を朗読しました。そのあと、参加者が詩を朗読、感想を述べ合いました。久しぶりに小林さんも参加され、とても良い詩を書いて朗読されました。隠岐の流人を書いた詩で、今までにない洗練されたスタイルで、早速石見詩人への復帰の手紙を書き、OKの返事をいただきました。石見詩人は11月初旬が〆切です。

 

さてさてさて、来年は詩部門が担当です。講師に誰を呼ぶか話し合いました。びっくりするような大物詩人を考えています。可能性も大いにあります。誰かって? それは・ひ・み・つ・top secret でーす。

H26 「現代の風刺25人詩集」コールサック社より刊行

2014年8月、コールサック社から「現代の風刺25人集」が刊行されました。

「船頭さーん、どこへ行くの?方向が違うんじゃない?」と思っても、船頭さんは自信を持って船を漕いでいます。風通しの悪いもやもやした船室にいて狂いそうな人もいます。

そんなとき、風がサーッと流れ、一瞬スカッとするような詩や、面白くて思わずニヤニヤするような詩もたくさん載っています。

現代詩が詩人仲間だけで読まれている現在、一般社会との分厚い壁に風穴を開ける貴重な企画から生まれた詩集です。

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この詩集が紹介されているチラシの一部を見てみましょう。有馬さんの文章です。
序文

25人の参加者は次の通りです。

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ぼくは、今までに風刺を意識して書いた詩は数編しかありません。ここに載っている5編の詩も、風刺を書こうとしたわけでは全くありません。人間を書こうと思って書いたのです。同時に、社会の中で生きる人間のつらさ、苦しさ、面白さ、怒り、などが自然にユーモアになっていたり、それをは意識した面はあります。

誘いを受けたとき、ちょっと驚きました。「風刺詩を書いている詩人として見られていたのか!なんで?なんでかな?」有馬さんが編集者へぼくの名前を挙げられたそうですが、なぜ?と一瞬不審に思いました。そして、「ぼくの詩のユーモアを認められたのかな」と思い少し納得しました。ユーモアと風刺は背中合わせみたいなところがあるからです。

ある人に贈呈したらたくさん感想が返ってきました。その中に、「編集者がすべての詩を丁寧に読んで感想を書いて紹介しおられるのに感心しました」、というのがありました。それはぼくも同感です。実によくその詩の特徴を掴んで的確に批評しておられます。佐相さんと鈴木さんです。忙しいのによくもここまでやられたものです。

ぼくも自分の詩の批評を読んで、とても感じ入ることがありました。これを読んだとき、参加した甲斐があった、と思いました。編集者のひとり、佐相憲一さんの文章です。

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この詩集のために作られた詩は少なく、大部分の作品が過去の中から自薦されたものだと思います。風刺だけを狙って意図的に書いたら、もっと強烈な詩集になったかもしれません。と思うと同時に、一色ではなく、多種多様な詩があるからいいんじゃないか、とも思いました。

 

 

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H26 第2回中国ブロック劇王決定戦

日本劇作家協会中国支部長の藤井友紀さんから案内が届きました。藤井さんは広島で劇団「黄金山アタック」を立ち上げて活動しておられます。

ぼくの記憶では、中国支部は一度だけ、鳥取市で総会とシンポジュームを開きましたが、それ以外には活動していませんでした。藤井さんが支部長になり、広島を中心に活発な活動が展開されはじめたようです。

劇王というのは、劇作家協会東海支部が企画してはじまったイベントで、各地域に広まっています。天下統一大会もひらかれています。劇作家が企画するだけあって型破りの生き生きとしたイベントです。

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募集の〆切は7月31日です。役者は3名、上演時間は20分、オリジナル作品に限る、大会は11月2日。

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engeki1640@yahoo.co.jp を開くと応募方法などが分かります。

H26 第60回全国高校演劇大会で出雲高上演(7/28)

2014年度の高校演劇全国大会は7月28、29,30日、茨城県ひたちなか市文化会館で開催されます。昨年も中国地区代表として長崎大会へ出場した出雲高校は、「見上げてごらん夜の☆を」(伊藤靖之作)で出場します。沼田高校の黒瀬貴之さんが書かれた脚本「ちいさなタネ」(エリック・カール原作、ゆあさみえ訳)を長野県の松川高校が上演するのも楽しみです。

高演協事務局から送られてきたチラシを紹介しましょう。

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出雲高校の演劇については、島根県大会のときの舞台評を含め、このブログで4回くらい取りあげています。閲覧グラフで見るとコンスタントに読む人が多かったのですが、全国大会が近づくと更にグラフが高くなっています。高校演劇を応援するのが劇研空の一つの目標ですから、PRも兼ねて写真中心に紹介します。
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この大会の脚本は、高校演劇劇作研究会が発行している『高校演劇』茨城大会上演作品特集に掲載されています。この雑誌も、今年が記念すべき創刊50周年を迎えます。毎年この全国大会のときに総会を開きます。ことしも残念ながら欠席のハガキをだしました。

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この大会特集号は分厚いほんです。大会会場で同人の人達が販売しています。買う価値がある貴重な本です。

出雲高校の健闘をお祈りします。また大会の成功を祈っています。

 

 

H26,7/9,12 大阪教育大ホールで『また夏がきて』上演

大阪教育大学公認の「演劇集団F,I」が7月9日(水)12日(土)の2回、大阪教育大学大ホールで『また夏がきて』(洲浜昌三作)を上演します。代表の小田美佳さんから連絡がありました。

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近くなら観劇にいきたいところですが、なにしろ遠いので、はるか山陰石見から成功をお祈りすることにします。大田高校や邇摩高校の出身で、大阪に友人や興味がある人がいれば、紹介してください。大学の演劇部でこの作品が上演されるのは初めてです。高校生用の脚本というよりは、高校を卒業した若い人達の青春群像を描いた劇ですから、大学生や社会人が演じても十分通用するつもりで書きましたので、今回の上演がとても楽しみです。
ついでに冒頭2ページを紹介しましょう。テンポよく楽しく会話は進みますが、それぞれの卒業生が深刻な問題を抱えて生きていることがわかります。演劇部の部長で中学校の先生になった紀子は明るく振るまいますが、自分自身が不登校状態になっていることがわかってきます。元演劇部顧問が卒業生たちへ送る温かいメッセージがラストで心を打つはず(?)です。

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この脚本集は晩成書房から出ています。5人の脚本が載っていて定価2千円です。欲しい人があれば送料含め半額でお送りします。

H26,7/21 米子市で永井ますみさん 詩の朗読

神戸在住で米子出身の永井ますみさんの「詩の朗読とギターのコラボレーション」が7月20日(日)米子エムスリーカルチャースクエアーで、21日は鳥取五臓圓ビルで開催されます。どちらも15時~と19時からの2回です。

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永井さんには『弥生の昔の物語』という詩集や『弥生ノート』というエッセイ集があり、ふるさとの米子の弥生時代をテーマにした作品があります。毎月神戸から研究会に通ったそうです。今回の朗読は『妻木晩田物語』というタイトルの弥生の壮大な叙事詩です。

次のチラシは5月に行われた「詩とギターの夕べ」です。とても好評だったそうです。

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永井さんの詩の朗読には定評があります。昨年、しまね文芸フェスタで詩の分科会に京都の有馬さんと一緒に来られて朗読されました。発音が明瞭、微妙な表現もできる技術を見につけておられます。ギターはスペインへ留学しヨーロッパで数多くのリサイタルを開いて来られた門脇康一さん。

希望される方には永井さんへ連絡をとります。若干割り引きがあります。興味のある人はどうぞ。

 

9月15日に妻木晩田遺跡公園にある弥生会館で、永井さんの詩の朗読があり、はるばる大田からでかけました。淀江町を車で走り、妻木晩田遺跡の高台に上がって眺めると、日本海が見えます。4世紀ころは多分今の平野は日本海の湾だったことでしょう。大陸の文化が直に入ってくる点では、出雲と同様です。当時は日本の文化の最前線だったのではないでしょうか。

永井さんの詩の朗読を風景写真で紹介しましょう。場所としてはとても風情のある場所です。

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永井さんの朗読は発音がとてもきれいで、可愛いらしい声が魅力的です。かなり朗読の修練をしておられますので、表現力もあります。ぼくらも劇研空で詩の朗読を今までに何度もやりましたが、詩だけの朗読で一般の人を引き付けるのには無理があります。音楽や朗読劇などとうまくコラボレーションしないと単調な時間になってしまいます。今回はギターと解説のコラボでした。直前にぼくらも大田市民会館で「朗読を楽しむ」を開催したばかりでしたので、詩の朗読について、朗読のプロデユースの仕方などについて、いろいろ考えました。

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永井さんには10冊以上の詩集があります、「愛のかたち」では富田歳砕花賞を受賞しておられます。全国の詩人や詩の朗読会をたずねて、詩人の詩の朗読を記録してDVDに編集しておられます。いままで2度島根に来られたとき、洲濱君の詩の朗読も撮影されました。次の詩集やエッセイはここ数年に寄贈を受けたものです。

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H26 島根県民文化祭、文芸作品募集

平成26年度の県民文化祭の文芸部門の運営委員会が開かれ、今年度の予定などが決定しました。文芸作品(短歌、俳句、川柳、詩、散文)の募集要項ができあがりました。各市町村の文化施設や学校などには届いているはずです。手にとって見てください。

作品募集は7月1日~9月5日です。ぜひ多数のみなさんに応募していただきたいものです。ぼくは詩の部門ですが、ここ数年30編前後で停滞気味です。小中学生が参加できるジュニア-部門は年々応募者が増えています。

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表彰は12月14日、松江の島根県職員会館で行われます。入賞作品は「島根文芸」に掲載されます。

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電子メールでの応募もOKです。bunkashinko@pref.shimane.lg.jp
「島根県民文化祭」とういうホームページもありますので、どうぞ。

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小中学生は自分から応募する者は少なくて、学校の先生の指導によって作品を書き、それをまとめて送ってこられる場合がほとんどです。ぜひ参加してください。

H26 「蛮族」37号で 作家・石田 登氏追悼

孤高の作家・石田 登さんが他界されたのは平成25年7月28日、88歳だった。石田さんは島根県雲南市吉田村川手に生まれ、農業をしながら小説を書いてこられた。「蛮族」が1976年7月に創刊された時からの有力な同人だった。その「蛮族」が平成26年4月に37号を発行し、石田さんを追悼している。

H26 「蛮族」37号

石田さんからは毎号「蛮族」を贈ってもらっていたので、必ず読んで、感想を書いて送っていた。年賀状もやりとりしていた。山陰中央新報に何度もエッセイを書かれたので、切り取って保存している。実際に会ったのは2,3回だけで、いつも文学の会合だったために、じっくり話したことはなかったが、小説を読んでいたし、その小説は一貫して私小説だったので、なんとなくよく知っているような気がしていた。寡黙で誠実な人だったが、小説に対しては厳しい人だった。50歳過ぎごろから、吉田村で陶芸もやっておられ、作品はプロ級だったそうで愛好者もあったという。一度訪問してみたいと思っていたが、とうとう実現しなかった。

「蛮族」37号目次

同人や関係者の追悼文は石田さんの小説を理解するのに大変参考になる。内藤美智子さんと野津泱さんの小説も載っている。大変おもしろく読んだ。

「蛮族」の編集・発行は松江市下東川津町266-7 野津 泱。定価500円。購入希望者はどうぞ。

詩 娘たちの「銀山巻き上げ節」

娘たちの「銀山巻き上げ節」
              ー石見銀山考ー                   洲 浜 昌 三

石見銀山で働いていた女性に会いに行こう  と誘われ
老女を訪ねたのは四十年前
娘のころ柑子谷の永久鉱山で働いていたという

地下三百メートルの立坑の座元から
鉱石が入った重いバケットをロープで引き上げる
若い娘が四人で 歌を歌いながら巻き上げたという

「歌ってくれませんか」というと
小柄な老女はニッコリ笑って歌いはじめた

仙の山からよー 谷底みればよー
捲いた まーたぁ 捲いたの アーヨイショ
アー声がするよ アーシッチョイ シッチョイ

娘のような声に乗り
歌は伸びやかに流れた
全身を使う厳しい労働なのに
どこか華のあるゆったりとした労働歌

三十五番のよー 座元の水はよー
大岡 まーたぁ 様でも アーヨイショ
アー裁きゃせぬよ アーシッチョイ シッチョイ

首に豆絞りの白い手ぬぐい
絣筒袖の着物に 赤い腰巻き
足には脚絆と藁の足半
巻き上げは若い娘の仕事だった

元の歌にはこんな歌詞もあったという

三十五は番よー この世の地獄よー
行かす まーたぁ 父さんは アーヨイショ
アー鬼か蛇かよー アーシッチョイ シッチョイ

過酷な労働だったのに
伸びやかで美しいメロディ

昭和18年の大洪水で再開発中の夢も砕かれ
六百年つづいた石見銀山の歴史が終わり
労働者で賑わった仁摩の街も寂れていったという

石見銀山を素材にして書いている「石見銀山考」の一篇です。「花音」の40周年記念コンサートのために鍵盤男子の中村匡宏さんが合唱用に曲を作らましたので、参考になるかもしれないと思い、載せてみました。この詩は大田市文化協会会報誌「きれんげ」と『中四国詩人集』にも載っています。

昭和48年頃、石見銀山の永久鉱山(仁摩側)で働いておられた人に話をうかがいに行きました。ぼくはテープに録音しました。しかしそのテープを捜してもまだ見つかりません。ぼくも若くて、価値をあまり意識しませんでしたが、時とともに価値が増して行きます。必ず捜します。

どのような動作で仕事をしたのか。想像はできますが、具体的に知りたいものです。労働歌ですから、それによって元の歌のリズムもわかってきます。ぼくの想像では、現在の歌い方より、もっと力強くて素朴な歌い方ではなかったのかという気がします。)

 

H26 熊井三郎詩集『誰か いますか』

島根県詩人連合は会報を発行しています。5月に76号がでました。今号では、閤田真太郎さん有原一三五さん、有川照子さん、井上祐介さんたちの詩と、群上健さん、栗田好子さん、槇原茂さんの随筆があります。

会員の詩集紹介として、渡部兼直さんの『渡部兼直全詩集』と有原一三五さんの詩集『酊念祈念Ⅱ』、成田公一さんの詩集『女たちへ』を紹介して、詩集の中から一篇を載せています。【最近読んだ詩集から】という連載コラムがあり、スハマクンが熊井三郎さんの詩集の感想を書いていますので紹介します。この会報は希望があればお送りします。

【最近読んだ詩集から】

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   独立した詩精神のさわやかさ       ー  熊井三郎詩集『誰かいますか』ー     洲 浜 昌 三

多くの詩が時代の状況に埋没している感がある中で、この詩集の言葉は状況や素材から起立している。この「自由な闊歩」が痛快でとてもさわやかだ。

熊井さんとは一、二度会ったことがあるが、もう四〇年くらい前のことだ。松江へ赴任してきて、文学の会合で一緒になった。弁も立ち、論旨明快、発声明瞭、言行一致、実行力もあり頼もしかった。同年生まれで、時代感覚が合う面もあり、時間を忘れて話した記憶がある。

いつの間にか松江から消え、「山陰詩人」で時々詩を読むだけになった。骨組みが覗き肉が薄い風刺詩も多かったが、タンカを切ったような潔よい詩を楽しみにしていた。  その後、奈良に居を構えた熊井さんとは年賀状のやりとりだけで、会ったことはない。

今回の詩集は処女詩集だという。熊井さんらしい。それが壺井繁治賞を受賞し、小熊秀雄賞候補にもなった。  三六編の詩は三つのパートに分けてある。最初は、身辺を素材にした温かく人間味にあふれた詩で、「父の贈り物」「約束の春」など不意に胸に迫ってくる感動がある。

しかし、一般的な意味の感動を期待して書いた作品はほとんどない。客観的な事実を並べ、積み上げてストリーを展開し、その中で、風刺や言葉遊び、比喩、意表を衝く逆転、告発、戯画化などで読者を引き付け、楽しませ、怒りや共感を呼び起こし、ふとした隙間から温かく感動的な風景が見えてくるという仕掛けです。

第二のパートでは、大阪弁を生かした言葉遊び軽口、毒舌、風刺を駆使した詩が楽しい。夜間識字学級の先生に三行以内の詩を頼まれて書いたという詩の一部を紹介しょう。
「馬くいかへんのよ/牛ろむきになるなよ/熊ったら言って来いよ」
「いつまで猫ろんでるの/ぼちょぼち犬わよ/蛙んやったら亀へんよ」

ばかばかしい駄洒落と思いながら、感心し、一本取られ、楽しんでいる自分がいる。

最後のパートは時代的、社会的、思想的に厚みと重さのある作品が中心になっている。「七十年目の証言」では中国大陸へ従軍した元兵士の残酷な事実が語られる。
「男がおったらすぐボンとやるわね/男はみな敵やからね」(略)「ひとりの兵隊が籠の前に立って/なにするか思たらションベン始めよった/泣いてる赤ちゃんの口めがけて/じゃあじゃあとね/やめたらんかいとわし言いたかったけど/みんな見て笑(わろ)とる」。強烈です。

最後の詩・「誰か いますか」は詩集のタイトルになった詩で、夢と希望の光が射してきます。  「俺たち隊員は 外国語が必修だ/韓国語 中国語 タガログ語」。国際災害救助隊員になって困った人たちを助けに行き、災害で閉じ込められている人へ言うのだ。
「誰か いますか/返事をしてください」

フィクションですが、現在進行中の海外で戦争ができる自衛隊へのアンチテーゼであり、同時に人間性豊かなアウフヘーベンでもある。

ーこの詩集をわが詩業のこよなき理解者にして協力者たる妻に捧げるーと冒頭にある。

ボクへノフウシ?
ノーノー。これは詩に非ず。献詞なり。論旨明快、発声明瞭。ここにも感動しました。
(詩人会議発行)

(紹介したい詩集はたくさんありますが、暇がありません。島根県詩人連合会員の詩集は優先的に、と思っていますが、まだの詩集が数冊あります)