井上嘉明著 評論『鳥取の詩人たち その他』

鳥取のの詩人・井上嘉明さんが2012年7月に詩の評論集を出されました。258ページ、1500円、発行所は流氷群同人会(鳥取市生山54 井上方 0857-51-8459)。10月14日の山陰中央新報、読書蘭で書評を書きましたので紹介します。井上さんは詩誌「日本未来派」「菱」の同人、文芸同人誌「流氷群」編集同人、日本現代詩人会、日本詩人クラブ、中四国詩人会に所属、現在は鳥取県現代詩人協会会長です。

 

井上嘉明著「鳥取の詩人たち その他」         隙間を埋める綿密な評伝  

この本は、著者が所属する詩誌「菱」、「日本未来派」や「鳥取文芸」「流氷群」「日本海新聞」などに五十年間にわたって執筆した詩人の評伝や詩人論、詩論などを一冊にまとめたものである。  多数の詩人や詩集が長短様々な評論で取り上げられ、詩人の未知の部分が明らかになり、生き様が浮かび上がってくる。  本は二章で構成され、第一章は「鳥取の詩人たち」で十七本の評論がある。冒頭は伊良子清白。「伊良子清白の岳父・森本歓一のこと」「清白の義母しまとその周辺」「清白と千代川」「清白終焉の地へ」など。

清白は詩集「孔雀船」で有名な詩人。明治十年鳥取市河原町で生まれ、生後母と死別、義祖母に預けられ、九歳のとき医者の父と大阪へ移り、京都医学校を卒業。その後は横浜、大阪、島根(浜田)、大分、台湾、三重県と漂白を余儀なくされた。著者は清白の家族関係や土地との関係を綿密に調べ、足跡をたどり、終焉地の大紀町を訪ねる。清白に関しては多くの著書があるが、欠落していた細部を埋める貴重な評論である。

つづいて「尾崎翠と高橋丈雄の周辺」「尾崎放哉と定型詩」。山下清詩集「白銀の大山」、清水亮詩集「軍歌時代」、田熊健、小寺雄造の詩人論。いずれも端正な筆運びで詩の特徴と詩人の拠って立つ基盤を浮き彫りにする。

第二章は二十本の評論や詩論から成る。「朔太郎と〈防火用水〉」「三好達治と〈馬〉」「金子光晴と〈水〉」、さらに中野重治、木原孝一、石垣りん、田中房太郎、西岡光秋、などの著名な詩人たちの面白いエピソードや著者との交遊などが伸び伸びと書かれ楽しい。

この章の最後には「戦後詩に出会うまで」「詩とカフカ」「あるがままの〈物〉」など著者自身の詩歴や詩論などが置かれている。どのように詩と向かい合ってきたか。十冊の詩集がある井上詩の核が垣間見える。

あちこちに書かれた貴重な評論をまとめて読めるのはありがたいことである。   (日本詩人クラブ会員 洲浜昌三)


2012年10月、中四国詩人会・岡山大会で、中四国詩人賞選考経過を発表する井上さん。受賞は岡山、河邊由紀恵さんの詩集『桃の湯』。とても深い読みでしかも的確な評価を端的に紹介されました。河邊さんの詩集についてはこのブログでも紹介しています。

岡山大会についてはそのうちこのブログで紹介します。

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